「十周年記念企画」と「王様のブランチ」について


 夜行


 そろそろ『夜行』が全国の書店へ行き渡りつつあるという。
 森見登美彦氏はどちらかといえば明朗愉快な作品のものが多い。考えてみれば『きつねのはなし』は十年前の作品なのである。しかし『きつねのはなし』の原形となった作品はさらに時間をさかのぼって、『太陽の塔』と同時に書かれたので、いわば『きつねのはなし』と『太陽の塔』は双子である。怖い話と愉快な話は登美彦氏の出発点から存在していた。

 
 太陽の塔 (新潮文庫) きつねのはなし (新潮文庫)

 
 とはいえ、怖い話を書く機会は少なかったから、そもそも登美彦氏がそういう作品も書く、ということを知らない人も多いかも知れぬ。そういう人が「ありゃ!?」と驚きつつも楽しんでくれることを登美彦氏は願っている。多少わけがわからなくても気にせずに、長い夜の果てに現れる風景を見届けていただければ幸いである。
 「どうせ作者も全部分かってるわけではないから安心したまえ」
 登美彦氏はそんなことを言っている。


 『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』も、どうかよろしくお願いします。

 
 ぐるぐる問答: 森見登美彦氏対談集


 ところで『聖なる怠け者の冒険』『有頂天家族 二代目の帰朝』『夜行』の三作は十周年記念作品である。
 すでに告知されているように十周年記念イベントが計画されている。
 応募要項はこちらの特設ページを参照。
 http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/
 イベントの詳細は登美彦氏と編集者諸氏が色々悪だくみをしている。
 そもそも登美彦氏が十周年を三年も延長したのが悪いのであり、その点については謝罪するほかないが、それはそれとして応募数が少ないとたいへん淋しいことになって、編集者の人たちとも気まずくなる。各単行本と帯をお持ちの方々は「人助け」と思って積極的に応募していただければ幸いである。イベントが無事に成功するそのときこそ、登美彦氏の呪われた十周年は終わるのである。


 また先日、登美彦氏は「王様のブランチ」の取材で尾道へ出かけ、気持ち良い秋空のもと、坂の町をうろうろしながら『夜行』について語った。
 その内容はおそらく今週末の「王様のブランチ」で放送されるのではないかと思うものの、関西では「王様のブランチ」を見ることができない。テレビに出るというのは落ち着かないものだが、その点、自分の家のまわりで放送されないというのはたいへんありがたい。近所の人に「見たぞ!」と指さされることもないのである。
 「王様のブランチ」が映る地域に住んでいる方々は、急に登美彦氏が画面に出現してぶつぶつ言い出しても、「ふーん」と適当にやり過ごしていただければ幸いである。


 あと小学館の人のご尽力によってCMも作られた。
 

『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』(小学館)

 


 坂崎千春さんの手による鹿男登美彦氏が目印の対談集である。
 こちらも『夜行』と同時に書店にならぶ予定である。


 対談相手は、
 劇団ひとりさん
 万城目学さん
 瀧波ユカリさん
 柴崎友香さん
 うすた京介さん
 綾辻行人さん
 神山健治さん
 上田誠さん
 羽海野チカさん
 大江麻理子さん
 萩尾望都さん
 飴村行さん
 本上まなみさん
 綿矢りささん
 そして2003年に『太陽の塔』を出版したばかりの登美彦氏。
 以上のような方々である。


 ずいぶん以前の対談もあるので、もはや「小さな歴史」を感じさせるものとなっている。
 このたび収録を許可してくださった対談相手の皆様に登美彦氏は深く感謝している。そして「申し訳ない」と思っている。なにしろ十周年企画が延長したということは、この対談集の出版も延期されたということで、かなり長い間にわたってこの対談集は「出るのか出ないのかハッキリしろ」という宙ぶらりん状態にあったからである。ようやく出版の運びになって、「これ以上、みなさんに迷惑をかけなくて済む」ということが登美彦氏は嬉しい。
 せっかくの同時刊行であるから、『夜行』とあわせてお買い上げいただければ幸いである。
 『夜行』の不気味さを中和するのに役立つかもしれない。


 

夜行

夜行

『夜行』(小学館)

 

夜行

夜行

 
 森見登美彦氏の十周年記念作品『夜行』が刊行される。
 10月25日頃から全国の書店にじわじわと姿をあらわす予定である。


 しばしば登美彦氏は自分の作品のことを「我が子」と表現してきたが、もし『有頂天家族』を「毛深い子」とするならば、この『夜行』は「夜の子」というべきであろう。『夜は短し歩けよ乙女』『宵山万華鏡』に続く三人目の娘のように感じられる。したがって『夜行』は「夜の娘」である。


 登美彦氏には「明朗愉快」な作品が多いが、『夜行』はそういう作品ではまったくない。したがって、アハハと笑いながら読める作品を求める方々は用心していただきたい。
 この作品に明朗愉快なところはどこにもない!
 不明朗不愉快!
 嘘ではない!これは本当!
 ことごとく腑に落ちない出来事が続き、登場人物たちは暗い道を辿り、ミステリーは何一つ解決されず、盛り上がる熱い展開も爽快な大団円もない。最後まで読めば何らかの光明が見えるかもしれないが、それが本物の光明であるという保証はどこにもないし、かえって夜の闇が深まるかもしれないのである。わざわざ本を買ってガッカリするようなことになっては申し訳ないのであり、ある種の覚悟をもって読んでいただく方が作者も読者も幸せになれるにちがいない。
 それゆえに登美彦氏は購入前の「試し読み」をオススメする。


 下記の特設サイトから。
 http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/

森見登美彦×前野ひろみち特別対談


 ランボー怒りの改新 (星海社FICTIONS)


 星海社の編集者H林氏の陰謀によって、森見登美彦氏は前野ひろみち氏と対談することになった。
 そのギクシャクした顛末が記載されているのがコチラである。
 小説の一部分も試し読みができる。
 http://sai-zen-sen.jp/sa/rambo/


 『ランボー怒りの改新』に収められた短編はいずれもへんてこな小説だが、ベトナム戦争飛鳥時代がガムシャラに融合した表題作のほか、登美彦氏としては「満月と近鉄」が好きである。舞台も雰囲気もまったく違うが、『ペンギン・ハイウェイ』に通じるものがある。
 それにしても「近鉄」という言葉が小説のタイトルになることはあまりない。
 「近鉄に乗ればどこへでもいける。伊勢でも京都でも、満月でも」


 なお、登美彦氏の新連載「シャーロック・ホームズの凱旋」の発想は、前野ひろみち氏の短編「ランボー怒りの改新」に基づく。
 ここに登美彦氏は前野ひろみち氏に対して深く感謝の意を表する。

 
 小説 - BOC - 3

『夜行』出版にともなうサイン会についてのお知らせ


 

夜行

夜行


 十月二十七日頃、森見登美彦氏の新刊『夜行』が発売となる。
 それにともない、下記書店にてサイン会が開催される予定である。


 ・紀伊國屋書店グランフロント大阪
 ・三省堂書店池袋本店
 ・丸善ラゾーナ川崎


 特設ページはこちら。
 http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/sign
 (確認できない場合は各書店へお問い合わせください) 


 なお、『夜行』と同時に森見登美彦氏初の対談集も発売される。
 天狗や狸やペンギンたちと卓袱台をかこむ、鹿の角を生やした登美彦氏が目印である。

 

「シャーロック・ホームズの凱旋」(「小説BOC」)

 
 
 

 
 中央公論社の文芸誌「小説BOC」(10月19日発売)において、森見登美彦氏の連載「シャーロック・ホームズの凱旋」が始まる。
 第一回は「赤毛連盟(前篇)」である。


 よく考えてみれば、2011年の全連載大破綻事件以来、登美彦氏が連載っぽい連載に乗り出すのは五年ぶりのことである。登美彦氏としては「締切次郎」とのこじれきった関係をそろそろ修復しなければならぬと考えたのであろう。とはいえ、この夏は『夜行』執筆に疲労困憊したために、第一回「赤毛連盟」が惜しくも前篇のみに終わったという事実からして、すでにいろいろと危ぶまれる感じは拭えない。
 しかし登美彦氏は「とにかく、少しずつでも前へ進む」と語っている。


 「ホームズといえばヴィクトリア朝ロンドンじゃないか」
 そう思う方もあるだろう。
 「十九世紀のロンドンなんて舞台を選んだらたいへんではないか?」
 その心配は御無用である。
 森見版ホームズは「ヴィクトリア朝京都」という見たことも聞いたこともない場所が舞台だからである。


 シャーロック・ホームズといえば名探偵である。
 名探偵といえば名推理で事件を解決するヒーローである。
 「破綻小説の大家たる登美彦氏にそんなスマートな小説が書けるのだろうか」
 そう思う方もあるだろう。
 だがその心配も御無用である。
 森見版ホームズは事件を一切解決しないからである。


 したがってこれはスマートな小説ではなく、推理小説でもなく、いずれどこかで破綻が起こるに決まっており、その破綻をうやむやにすべく、例によって登美彦氏はむちゃくちゃなことをするであろう。
 まだ先のことは分からないが、どうせそうなる。 

「チーズかまぼこの妖精」(「たべるのがおそい」)

 
 文学ムック たべるのがおそい vol.2


 「たべるのがおそい」という不思議な名前の本があるという。
 日本ファンタジーノベル大賞の先輩である西崎憲さんから依頼があり、
 「わがままに書けばいいと思うよ!」
 ということであったので、
 「なるほど。それならわがままに書こう!」
 と登美彦氏がわがままに書いたのは、どこかにあるという「妖精の国」へ帰還した妻の行方を追って、へなへな小説家やへなへな探偵やノラパカ(野良のアルパカ)が、奈良盆地の底でモゾモゾする小さな小説である。


 「じつはわたくしはチーズかまぼこの妖精であったのです。あなたに正体を知られたからには、こうして一緒に暮らしているわけにはまいりません。さようなら――ぺっこり四十五度」
 妻が唐突にそんなことを言いだし、某芸人の一発ギャグ風にお辞儀をしてベランダから飛び立ったのは、梅雨明けの青空が広がる夏の朝のことであった。ベーコンエッグを食べていた僕はたいへん驚き、食べかけのエッグもそのままにベランダへ飛びだした。
 しかし妻の姿はもう眩しい夏空の彼方にあった。くっきりと浮かぶ入道雲のとなりに、足の小指の爪みたいに小さな姿が見えるだけだった。あっけにとられていると、眼下の街路樹からジェイジェイジェイとクマゼミの声が湧き上がってきたのである。
 「これはたいへんなことになった」
 と僕は思ったわけである。

『作家の口福 おかわり』(朝日文庫)

 

作家の口福 おかわり (朝日文庫)

作家の口福 おかわり (朝日文庫)


 森見登美彦氏は、月に一度、研究室時代の先輩と飲みにいく。
 行く先は京都市内の賑やかな居酒屋であるが、ここでその名を明かすことはできない。ただでさえ混んでいる店が予約できなくなると、月に一度の貴重な楽しみが失われるからである。嗚呼、どれほどその店は先輩と登美彦氏の安息の場所であることか!
 登美彦氏の仕事場で落ち合った二人は、形式上「どこへ飲みにいくか」を相談する。しかし結論は最初から決まっているのだ。
 「今日もあそこでいいですかね?」
 「もちろん!」
 そうして出かけていくのである。


 その店の片隅で酒を酌み交わしていたとき、先輩は叫んだ。
 「この店は僕のペースメーカーなんだ!」
 なんのペースなのかはよく分からないが、それほど大事な店だと言いたかったのであろう。もしも「予約が取れない」ということになれば、先輩の人生はめちゃくちゃになるのだ。それほど素晴らしい店なのである。
 飲みながら登美彦氏はときどき愕然とする。
 出てくるもの出てくるもの、美味しくないものが何一つない。机上は見渡すかぎり美味しいもので埋め尽くされている。世界はこんなに美味しいものに満ち溢れていたというのか。森羅万象が美食であろうか。
 「世界万歳!」と叫びたくなる。
 月に一度の「口福」がその先輩を、そして登美彦氏を支えている。


 というような話は、この文庫にはおさめられていない。
 登美彦氏が書いたのは以下の四つである。
 ・ベーコンエッグ
 ・父の手料理
 ・無人島の食卓
 ・おいしい文章


 ほかにも大勢の方が食について語っている。
 執筆者の中にはあの万城目学氏もいる。

「有頂天家族2」制作決定

 
 

有頂天家族 二代目の帰朝

有頂天家族 二代目の帰朝


 


 「京都国際マンガ・アニメフェア 2016」において発表されたように、森見登美彦氏の『有頂天家族 二代目の帰朝』を原作とするアニメ「有頂天家族2」の制作が決定した。これは2013年に放送されたアニメ「有頂天家族」の続編となる。


 アニメ「有頂天家族」公式ページ
 http://uchoten-anime.com/


 制作発表にあたり、登美彦氏は次のようなコメントを寄せた。

 「また映像化しにくいものを書いてしまった」
 それが続編を書き上げたときに思ったことです。不器用な原作者である私は制作陣への適切な配慮を忘れ、おのれの荒ぶる妄想をおさえることができませんでした。これから制作陣の皆様が立ち向かわねばならぬ幾多の困難を想うにつけ、慚愧の念に耐えません。暴れん坊な原作者をお許しください。略儀ではありますが当コメントにて謝罪の意を表するとともに、第一期を凌駕する傑作の誕生をお祈り申し上げます。


 そもそも『有頂天家族 二代目の帰朝』は2013年に出版される予定であったが、執筆が暗礁に乗り上げて遅れに遅れ、アニメ放送終了後の打ち上げ会場で制作陣と出演者の皆様から「第二部はまだ完成しないんですか?」と吊し上げられるという事態を惹起してもなお完成せず、アニメ化の記憶も薄らいできた2015年になってようやく出版されたものである。
 そのような体たらくでありながら、このたびの続編制作へと至ったのは、ひとえに制作にたずさわる皆様のたいへんな熱意と、作品を愛してくださる皆様のおかげである。登美彦氏自身は正直なところ、よくぞこの企画が成立したものだと今もなお不思議で、とにかく皆様に感謝するほかない。


 コメントにおいて、登美彦氏はつい調子にのって「第一期を凌駕する傑作の誕生を」などと書いたが、冷静になって考えてみれば、原作はあくまで登美彦氏の原作なのであり、その言葉はそっくり自分自身に跳ね返ってくる。そもそも「よっしゃ、ここは一つ傑作を」などという了見で作品を作ることはできない。「貴君はそれに足る原作を書いたのか?」と問われればどうするのか。「よけいなこと書いた!」と思ったが、今となっては手遅れである。
 登美彦氏は調子に乗ってしまったことを深く反省しつつ、今はただ静かに「有頂天家族」続編制作決定のヨロコビを噛みしめている。


 なお、第二期の制作決定に合わせて、第一期のblu-ray BOXも発売されることになった。この機会にお買い上げいただければ、きっと制作陣の方々も二期へ向けて勇気百倍であろう。
 登美彦氏も購入するつもりである。
 「一家に一箱、有頂天家族

森見登美彦氏、アフタートークへ出かける。


 ヨーロッパ企画の人たちからお誘いがあったので、森見登美彦氏は出かける模様である。
 10月6日の大阪公演のあと、上田誠氏やミシマ社の人と話をする。
 

 http://www.europe-kikaku.com/


 

ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。

ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。


 収録された登美彦氏の文章「ヘンテコなシステムと遊ぶ人たち」はともかくとして、この本はたいへん面白い本である。そして上田誠氏の書き下ろし短編戯曲「小さな出版社」にはビックリである。
 「ん?」
 「え?」
 「え!」
 「あ!」
 というふうになる。
 登美彦氏は翻弄されるのみであった。