中央公論社の文芸誌「小説BOC」(10月19日発売)において、森見登美彦氏の連載「シャーロック・ホームズの凱旋」が始まる。
第一回は「赤毛連盟(前篇)」である。
よく考えてみれば、2011年の全連載大破綻事件以来、登美彦氏が連載っぽい連載に乗り出すのは五年ぶりのことである。登美彦氏としては「締切次郎」とのこじれきった関係をそろそろ修復しなければならぬと考えたのであろう。とはいえ、この夏は『夜行』執筆に疲労困憊したために、第一回「赤毛連盟」が惜しくも前篇のみに終わったという事実からして、すでにいろいろと危ぶまれる感じは拭えない。
しかし登美彦氏は「とにかく、少しずつでも前へ進む」と語っている。
「ホームズといえばヴィクトリア朝ロンドンじゃないか」
そう思う方もあるだろう。
「十九世紀のロンドンなんて舞台を選んだらたいへんではないか?」
その心配は御無用である。
森見版ホームズは「ヴィクトリア朝京都」という見たことも聞いたこともない場所が舞台だからである。
シャーロック・ホームズといえば名探偵である。
名探偵といえば名推理で事件を解決するヒーローである。
「破綻小説の大家たる登美彦氏にそんなスマートな小説が書けるのだろうか」
そう思う方もあるだろう。
だがその心配も御無用である。
森見版ホームズは事件を一切解決しないからである。
したがってこれはスマートな小説ではなく、推理小説でもなく、いずれどこかで破綻が起こるに決まっており、その破綻をうやむやにすべく、例によって登美彦氏はむちゃくちゃなことをするであろう。
まだ先のことは分からないが、どうせそうなる。