森見登美彦氏の最新作『シャーロック・ホームズの凱旋』が一月二十二日に発売された。幸いなことに「発売日重版」ということになったが、これもひとえにシャーロック・ホームズという不滅のキャラクターのおかげであろう。
「森見登美彦のシャーロック・ホームズ?」
「ミステリなんて書けるの?」
そのような心配は無用である。作中のホームズは深刻なスランプに陥っており、まともな推理は何ひとつできないからだ。そもそも本作は「絶対にミステリを書かない」という固い決意のもとに書かれたのである。少年時代の憧れであったシャーロック・ホームズを「スランプ中のダメダメ探偵」へと引きずり下ろしたのは申し訳ないことだが、そうやって徹底的におとしめられてもホームズは依然としてホームズだった。
本作を読むにあたって、とくに予備知識は必要ない。
・シャーロック・ホームズは名探偵である。
・ワトソンはその相棒・記録係である。
・モリアーティ教授はホームズの宿敵である。
・作者はコナン・ドイルである。
そんな感じのおおざっぱな知識があればじゅうぶんだろう。どうせ「ヴィクトリア朝京都」などというヘンテコな世界が舞台なのだから……。
しかし、シャーロック・ホームズについての知識があればいっそう楽しめるのも事実である。『シャーロック・ホームズの凱旋』は、以下に掲げる四冊のコナン・ドイル作品を踏まえて書かれた。機会があれば、ぜひ原典も手にとっていただきたい。
ちなみに登美彦氏のお気に入りは『四人の署名』である。インドの財宝、密室殺人、テムズ川の追跡劇、ワトソンとメアリの嬉し恥ずかしのロマンスなど、オモシロ要素を「これでもか!」と詰めこんだ、作者コナン・ドイルの若々しい情熱が感じられる一冊である。ジェレミー・ブレット主演のドラマ版も傑作。