『森見登美彦リクエスト! 美女と竹林のアンソロジー』1月22日発売

森見登美彦リクエスト! 美女と竹林のアンソロジー

森見登美彦リクエスト! 美女と竹林のアンソロジー

 

 (まえがきより)

 「なぜ竹林なのか」と世の人は問うであろう。

 京都の某中華料理店において、担当編集者からこのアンソロジー企画を持ちかけられたとき、いささか私は怖じ気づいた。小説家の皆さんに書いてもらう?しかも好きなお題で?自分にそんな資格があるのか?あまりに畏れ多いことである!もちろん即座に断ろうとした。

 しかしその瞬間、風にざわめく竹林の姿が脳裏に浮かんできた。そしてふと気がつくと、この企画を引き受けていたのである。

 私は子どもの頃から竹林に心惹かれてきた。大学院で竹の研究をし、竹林を刈るだけという無謀なコンセプトで『美女と竹林』という本を書き、『竹取物語』の現代語訳にまで手をつけた。まるで宇宙植物のようなその佇まい、どんどん増える怪物的な繁殖力、彼岸と此岸の境界を思わせる内部空間……それらが私を魅了して止まないのである。というわけで、「竹林小説のアンソロジーを作る」というアイデアはあまりにも魅力的であり、とうてい抗うことはできなかった。この機会を逃せば、こんな得体の知れない本を世に送り出す機会なんて二度とこないだろうから……。

 かくして空前絶後の竹林小説アンソロジーが誕生した。

 それではみなさん、どうぞ竹林の奥深くへ。 

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 このアンソロジー企画は二冊同時刊行であり、もう一冊は宮内悠介氏のリクエストによる。

 こちらのテーマは「博奕」である!

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

 

 以下は森見登美彦氏の竹林関連書籍である。

美女と竹林 (光文社文庫)

美女と竹林 (光文社文庫)

 

プレゼントキャンペーン、イベントのお知らせ

 文藝別冊『総特集 森見登美彦』の発売を記念して、現在プレゼントキャンペーンがおこなわれている。サイン入りポラロイド写真などというプレゼントが混じっている点は、生温かい気持ちで大目に見ていただきたい。「森見登美彦をつくった100冊」から選ばれた5冊の書籍セットは読みごたえのある素晴らしいものである。

 ご応募いただければ幸いです。

web.kawade.co.jp 

 また、国立民族学博物館京都国立博物館において対談イベントがおこなわれる。どちらも申し込み締切まであと僅か。よろしくお願いします。 

books.bunshun.jp京都国立博物館のイベントについては下記を参照。

https://www.kyohaku.go.jp/jp/event/etc/20190203_morimishi.html

森見登美彦氏、直木賞に敗北する。

熱帯

熱帯

 

  昨年のクリスマス・イブのことである。

 万城目学氏が京都へやってくるというので、劇団ヨーロッパ企画上田誠氏も交えて忘年会をすることになった。たしか一昨年の聖夜も、この三人のおっさんたちで清らかな京都の夜をさまよった。ひょっとして、これから死ぬまで聖夜はこのメンバーで過ごすことになるのだろうか……。

 ともあれ、万城目学氏が京都へ来るというなら、知らんぷりはできない。

 そういうわけで、世にも清らかなおっさんたちは京都市内で落ち合うと、タイ料理店で皿いっぱいのパクチーをもぐもぐ頬張り、次に立ち寄った小料理屋で「我々は文士である」と主張したところ「は?」と問い返されて恥じ入ったりしつつ、花見小路のそばにある静かな酒場へと流れつく頃にはすっかり夜も更けていた。

 

 その夜、登美彦氏の直木賞候補の件が話題になった。

 なにしろ万城目学氏は落選経験豊富な歴戦の強者である。万城目氏と登美彦氏が同時に候補になったのは2007年のことだが、その後、万城目氏が落選経験を着実に積み重ねる間、登美彦氏はまったく蚊帳の外にあり、最近になって万城目氏からバトンを受け継いだかのごとく二回候補になった。このたび、ふたりで通算八度目のチャレンジということになる。

 「我々は登山ルートを間違えている、どう考えても」

 万城目氏と登美彦氏はそんな話をした。

 直木賞というものをひとつの険しい山だと考えると、山頂へ至るための妥当な登山ルートがあるはずである。にもかかわらず、我々はわざわざヘンテコなオモシロ登山ルートを選び、当然の帰結として転落を繰り返している。「あいつら、なんであんなおもしろおかしいところから登ろうとしているんだ。阿呆じゃなかろうか」と思われているにちがいない。だからといって今さら小説の書き方を変えるわけにもいかず、そもそも候補になるかどうかを決めるのも自分たちではない。日本文学振興会の深遠な意図は我々の理解の及ばぬものである。結局どうしようもないよねー、という結論に達するほかない。

 午前二時頃、酔っ払ったおっさんたちは酒場を出て、よろよろと夜の祇園を歩き、四条大橋を渡り、やがて四条河原町の交差点にさしかかった。

 「クリスマス・イブの四条河原町!」

 ここですかさず登美彦氏の処女作『太陽の塔』を引き合いに出してくれるところが上田誠氏の気遣いである。とりあえず彼らは、がらんとして人通りも少ない聖夜の交差点で「ええじゃないか」記念撮影をした。

 そして「良いお年を」と言い合いながら解散したのであるが、

 「直木賞を取ってくれや、トミー」

 別れ際、万城目学氏が唐突に言った。

 「この登山ルートでも登れることを証明してくれ」

 

 というわけで、直木賞選考会の当日である。

 午後五時に登美彦氏は神保町「ランチョン」を訪れた。候補作『熱帯』にも登場する店であり、待ち会をするのにふさわしいと考えたのである。

 登美彦氏がぽつねんと座っていると、各社の担当編集者や国会図書館の元同僚が合流してきて賑やかになった。国会図書館関西館に勤めるH氏は「今回こそは受賞する」「競馬で鍛えた俺の勘に間違いはない」「歴史的瞬間に立ち会うんだ」と言い張って、登美彦氏が止めるのも聞かずに上京してきた。また、『熱帯』に登場している元同僚のK氏も「きたよモリミン!」と楽しそうに姿を見せた。

 それにしても電話を待つのはイヤなものである。言葉少なにバヤリースをおかわりしながら待っているうちに腹がたぷたぷになってしまう。ランチョンの窓の外はだんだん暮れてきて、街の灯がきらめき始めた。

 電話が鳴ったのは午後六時半頃であった。

 みんなが息をひそめる中、登美彦氏は電話を取った。結果はすでに皆様ご存じのとおりである。登美彦氏は電話をおくと、自分のためにランチョンに集まってくれた人々を見まわして「残念でした」と言った。

 元同僚たちは口々に叫んだ。 

 「あんなに面白くても駄目なのかい、モリミン!」

 「(俺の胸で)泣いてもええんやで!」

 持つべきものは友である(泣かないが)。

 ここで登美彦氏が思いだしたのは、昨年のクリスマス・イブに万城目氏と交わしたやりとりである。

 おそるべき直木賞マウンテン、我ら通算八度目の挑戦も敢えなく失敗してしまった。「この登山ルートはやはり登れません」と登美彦氏が万城目氏に無念の結果を伝えると、万城目氏からは「お天道様は見ている」と慰めの言葉が送られてきた。しかしそのとき、登美彦氏は用心深く考えたのである。万城目氏は内心ほくそ笑んでいるにちがいない。このように登美彦氏にオモシロ登山ルートを攻略させる一方、すでに自分は別の登山ルートを模索しているに決まってる。まったく油断のならない人物なのである。

 

 いずれにせよ、登美彦氏の無謀な挑戦は終わった。

  「バヤリースはもう沢山です、麦酒をください」

 登美彦氏は言った。

 「これより、この待ち会を『新年会』とする」

 かくしてランチョンに集った人々は、さらに合流してきた編集者や友人をゆるやかに迎え入れつつ、賑やかに神保町の長い夜を過ごしたのであった。奈良で待つ妻に登美彦氏が無念の結果を知らせると、「あなたのために集まってくれた人たちに感謝をお伝えください」と返事がきた。まことに妻の言うとおり、登美彦氏はすべての人に感謝しなければならぬ。編集者と友人たちが入り乱れて混沌としていく新年の宴を眺めながら、登美彦氏は温泉につかっているような幸福な思いに充たされたのである。

 たしかにこの落選によって、伏見稲荷大社まで受賞祈願に出かけた父親は選考委員諸氏に対して怒り心頭に発するであろうし、執筆の苦労をともにしてきた妻はやはり哀しむことだろう。しかしながら、このように味わい深い新年会を楽しめるのも、直木賞のおかげであると言わねばならない。

 落選もまた人生だ。

 

 真藤順丈さん、受賞おめでとうございます。

 心よりお祝い申し上げます。 

宝島

宝島

 

「総特集 森見登美彦(文藝別冊)」本日発売。

 文藝別冊、本日発売であります。

 昨年の晩秋、担当編集者が「編集しても編集しても編集作業終わらず、ジッと手を見る……」と途方に暮れたほど盛りだくさん、読んでも読んでも終わらないのである。森見登美彦氏の小説をそれなりに憎からず思っている人には、「お買い得」以外のナニモノでもないと信ずる。

 手に取っていただければ幸甚であります。 

森見登美彦氏、『嵐が丘』を読む

オール讀物 2019年1月号

オール讀物 2019年1月号

 

 森見登美彦氏は、万城目学綿矢りさの両氏と読書会を開いた。

 課題図書としてエミリー・ブロンテの『嵐が丘』を選んだのは登美彦氏である。途中まで読んで挫折したことがあったが、「読書会」という動機付けがあれば読み切れるだろうと考えたのである。「この小説は万城目学氏の好みではあるまい」というイジワルな魂胆もあった。

 案の定、万城目学氏はかなりの苦戦を強いられたらしく、読んでいる最中、「この家政婦の昔話はいつ終わるんやトミー……」などという嘆きのメールを登美彦氏に送りつけてきたりもした。とはいえ、そんな万城目学氏も読書会は楽しかったという(本人談)。たとえ苦戦を強いられた本であっても、否、むしろ苦戦を強いられてこそ、読書会は楽しいものである。ちなみに綿矢りさ氏は「面白かったっす」と言っていた。

 今回、森見登美彦氏は『嵐が丘』を読んで、この古典的作品がじつにヘンテコで歪んだ作品であることに魅了されてしまった。恋愛小説というよりも怪奇小説、いっそのこと「エミリー妄想劇場」と言いたくなる。「モリミー妄想劇場」としか言いようのない作品ばかりを書いている登美彦氏としては、親近感を覚えざるを得なかった。

嵐が丘 (新潮文庫)

嵐が丘 (新潮文庫)