先月の『夜行』に引き続き、対談集『ぐるぐる問答』も発売となった。
もっと早くお知らせしなければならなかったのだが、秋の野の淋しさに気をとられているうちに、いつの間にか時間が経ってしまった。
単行本版の対談に加えて、あらたに伊坂幸太郎氏・辻村深月氏との対談、そしてカメントツ氏によるインタビューマンガも収録されている。カメントツ氏といえば、『こぐまのケーキ屋さん』を森見家では夫婦そろって読んでいるのである。
そして『夜行』もまだまだよろしくお願いいたします。
いつの間にか秋になっている。
そしてまたいつの間にか、森見登美彦氏の『夜行』も小型化されるときがきた。大きなものと小さなものをそろえるのは紳士淑女のたしなみである。尾道・奥飛騨・青森・天竜峡・鞍馬いずれかの写真をプリントしたポストカード(登美彦氏の短いエッセイ「夜の車窓」つき)も挟みこまれている。
言うまでもなく秋は旅の季節であり、登美彦氏も二つの旅を予定している。この小さな本を旅先の宿で読めばキモチワルイ臨場感が増すことウケアイ。そのためにこそ、この小さな本はある。
文庫版『夜行』といっしょに、込由野しほ氏の手になるコミック版の『夜行』も刊行される。こちらもよろしくお願いします。
さらにこのたび、創元推理文庫から刊行中の『平成怪奇小説傑作集』の第二巻に、登美彦氏の短篇「水神」が収録された。今年の夏、登美彦氏は「夏こそ怪奇小説を読むべきである」と書いたが、さらに「秋こそ怪奇小説を読むべきである」とつけくわえるべきだろう。ところで、その昔イギリスではクリスマスに怪談話を楽しんだらしい。冬も怪奇小説によく似合う。というわけで、一年の大半は怪奇小説の季節なのである。
小説『熱帯』を書くとき、森見登美彦氏は「千一夜物語」というものを下敷きにした。一般的には「アラビアンナイト」と言ったほうが伝わりやすいだろう。たとえば「アラジンと魔法のランプ」や「シンドバッドの冒険」など、昔から映画などでもお馴染みのイメージである。
なにゆえ登美彦氏は「千一夜物語」を取り上げたのか。
それはこの物語集がとてつもなく膨大で、ヘンテコな入れ子構造を持ち、しかも「西洋と東洋」を股にかける複雑怪奇な成立過程を持っているからである。「千一夜物語」について調べると、「物語」が大勢の人間たちを幻惑していく魔力に驚かされる。だからこそ「千一夜物語」を自分なりに料理してみたくて、登美彦氏は『熱帯』を書いた。
『熱帯』執筆が終盤にさしかかった頃、どうしても「千一夜物語」について専門に研究している人の話を聞きたくなった。
研究者の西尾哲夫先生が国立民族学博物館にいらっしゃることを知ったとき、「これは運命にちがいない!」と登美彦氏は思った。なぜなら民博のある万博公園は登美彦氏の幼少時代の遊び場であり、想像力の源泉であったからだ。『太陽の塔』は登美彦氏のデビュー作のタイトルである。国立民族学博物館へ西尾先生を訪ねていって、澄んだ秋空にそびえる太陽の塔を眺めたとき、人生の伏線を回収したような感慨を覚えたものである。そして西尾先生に「千一夜物語」の写本を見せてもらったり、貴重なお話を聞いたおかげで、『熱帯』を書き上げることができた。
『熱帯』には「千一夜物語」に取り憑かれた人々が登場する。そもそも「千一夜物語」を作り上げてきたのは「千一夜物語」という夢に取り憑かれた人々だった。『ガラン版千一夜物語』を手がけたアントワーヌ・ガランは、ヨーロッパで初めて「千一夜物語」に取り憑かれた人間といえるだろう。もちろん「千一夜物語」は中東で生まれたのだが、ガランの手で翻訳紹介されたことによって、世界の「千一夜物語」へと変身を遂げたのである。ある意味ではガラン版が始まりなのだ。
このガラン版(全六巻)を翻訳中の西尾先生もまた、「千一夜物語」に取り憑かれた人である。「千一夜物語」に取り憑かれた人々の手を借りて「千一夜物語」は変身を重ねていく。
夏である。サマータイムである。
きびしい暑さに読書意欲も減退しがちな今日このごろ、うわさの『三体』をひいこら読み終えた登美彦氏のもとへ、上記の二冊が届いたのである。
夏こそ怪奇小説を読むべきである。
『インスマスの影』は日本ファンタジーノベル大賞の先輩、南條竹則氏による翻訳である。タイトルにもなっている中篇「インスマスの影」を、登美彦氏は高校時代に読んだのだが、そのなんともいえないイヤな感じにびっくりして、同級生に勧めてイヤがられたのである。
ところで南條竹則氏の翻訳といえば、チェスタトンの『木曜日だった男』がある。なんとも不思議な冒険譚で、一度読んだら忘れられない。登美彦氏は昔から好きだった。怪奇小説が苦手な人にはこちらがオススメである。
昨日、かしのこおりさんの新作刊行を盛り上げるべく、担当編集者氏に教わりながらtwitterに本作の一部を公開した。マンガ版『太陽の塔』は、登美彦氏のデビュー作『太陽の塔』の妄想と哀愁を、たいへん繊細にマンガへうつしかえた傑作である。読むべきである。第二巻ではいよいよクリスマスが迫り、主人公たちによる「四条河原町ええじゃないか騒動」も迫る。第二巻は七月二十三日に発売である。どうぞよろしくお願いします。
そして第一巻、ついでに原作もよろしく。
時の流れるのは早いもので、登美彦氏が『熱帯』後遺症のリハビリに励んでいるうちに、今年も祇園祭の季節がめぐってきた。 登美彦氏は人混みが怖いので、いつもこの季節になると「行くべきか」「行かざるべきか」と思い悩み、その挙げ句に行ったり行かなかったりするのである。
宵山を見物してから読んでも、読んでから宵山を見物してもよろしい。もちろん「読まない」という選択肢はつねに存在する。筆者としては、読んでもらえると出版社と作者のフトコロがいくらかあったまる!という厳然たる事実を指摘するのみである。こちらもよろしくお願いします。