『奇想と微笑 太宰治傑作選』(光文社)


 十一月十日、登美彦氏の甥が書店に登場するという。
 太宰治生誕百年の二○○九年がそろそろ終わりに差し掛かる頃、
 なんとか間に合ったのである。

 
奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)


 森見登美彦氏は、はじめて「アンソロジー」というものを作った。
 作品を選ぶのはじつに楽しいけれども、またムツカシイお仕事であった。
 そして登美彦氏は長い「解説」というものも書いた。
 これはもう「難儀」というほかない、お仕事であった。


 登美彦氏は太宰治氏のヘンテコで愉快な面に着目し、
 忍び寄る『人間失格』の烙印や、
 「うまれてきてすいません」的な人生の暗さから、
 あの手この手で逃れる作品を選んだという。


 そして本ができあがってきたとき、
 「太宰治」という名前と、自分の名前が並んでいることに、
 ただただビックリしたという。
 「思えば遠くへ来たものだ…」と呟いた。

 
 「これは面白い本ですよ!」
 自分の書いたものではないので、
 登美彦氏はいつになく強気で薦めることができるのである。
 「どうか、『解説』なんてものは、どうかお気になさらず!」


 この本の最後には「走れメロス」という短編がある。


 ここだけの話だが、じつはこのメロスを現代に置き換えた小説がある。
 「誰が書いたか」ということは大した問題ではない。
 「面白いのか?」ということも大した問題ではない。
 ともかくそういう本があり、
 文庫化されて今もまだ店頭に並び立てほやほやであり、
 二冊とも買うと洩れなく「登美彦氏が私腹を肥やすぞ!」
 という有意義な情報を提供して本日の更新を終わる。

 
新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)