森見登美彦氏は生きている。
じわじわ元気になってきた。
先日の筆者の書き方が下手くそで、
大勢の人に心配をおかけしたことをお詫びします。
「あんな書き方したら心配されるのは当然ですよ」と万城目学氏も言った。
しかし、登美彦氏の一番苦しい時期はもう終わっている。
(と筆者は信じるものである)
なにしろ春も来たのであるから。
にわかに世の中は春になる。
かつてはともに迷走した学生時代の盟友明石氏が、
ついに独身貴族を引退した。
登美彦氏は東京の立派なホテルで開催された披露宴に出かけた挙げ句、
不本意ながらグダグダなスピーチをして心に深い傷を負った。
新幹線に乗って逃げ帰ってきても、まだずきずきと痛む。
傷心の登美彦氏を日本に残して、
明石氏はイタリアのメルヘンチックなリゾートホテルへ出かけていった。
今頃はボサボサ頭でムツカシイ顔をして地中海を眺め、
いびつな形のパスタか何かそれっぽいものを、
もむもむと頬張っているに違いないのだ。
「なんということであろう!」
登美彦氏は呟く。
「勝手に幸せになるがいい」
登美彦氏が引き籠もって傷ついた心をやすめていると、
万城目学氏が京都へやってきた。
誘われて京都の小さなスペイン料理店へ出かけていくと、
一番奥のテーブルに、
万城目学氏と綿矢りささんと青山七恵さんが座っていた。
青山さんと登美彦氏は初対面である。
万城目氏は「森見さんは石垣つきの豪邸に住んでいる」などと、
根も葉もないことを吹聴して綿矢さんたちを混乱させ、
あいかわらずの悪党ぶりであった。
「万城目氏が今の連載に手こずればいいのに」
登美彦氏はそんなことをひそかに思ったが、
自分の仕事がうまくいかないからといって、
他人の失敗を願うのは決して立派なことではない。
その夜、登美彦氏はおおむねボーッとしていた。
青山さんは万城目氏に頼まれてサインをした。
綿矢さんはトマトジュースをしこたま飲んでいた。
そういうわけで、登美彦氏は生きている。
じわじわ元気になっている。