登美彦氏、一月の終わりを迎える


 森見登美彦氏は多くの人と同じように、一月の終わりを迎えつつある。
 二○○六年の十二分の一は早くも過ぎ去った。


 「諸君、ここで胸に手を当てて己に問うてみよ。二○○六年に成し遂げるべき事柄の十二分の一を、諸君はすでに成したであろうか。一月に成し遂げたことを十二倍すれば、それで諸君の目標は達成されるであろうか」
 登美彦氏はもちぐまたちを集めて説教した。
 「私はこっそり計算してみたが、一月に成し遂げたことを十二倍しただけでは、とうてい二○○六年の目標を達成できないことが分かった。これは由々しきことだ。のんべんだらりと遊んでいる場合ではない。今まで何をやっていたんだ君たちわッ!お花畑で追いかけっこか?壺の蜂蜜でもナメていたのか?ナメるんじゃない!」
 登美彦氏は怒りにまかせてテーブルを叩いた。
 そうして、地下室の隅をぐるぐる廻った。
 「早急に手を打たねば大変なことになるぞ!」

 少年老いやすく学なりがたし。
 一寸の光陰軽んずべからず。

 登美彦氏はそうメモに書いて、何事か対処した気持ちになった。


 「しかし、こうして未来への不安に縮み上がっている場合ではないのだよ、諸君」と登美彦氏は呟いた。「もちろん、愛する少女のために巨像を倒している場合でもない」
 登美彦氏は熱い珈琲を飲み出した。
 きびだんごを食べた。
 「俺はいったい昨年の十二月から幾つきびだんごを食べれば気が済むのだろう・・・いや、しかし今はそんな哲学的な問いにとらわれている場合ですらないのだ」


 登美彦氏は煙草をぷかぷか吹かした。
 「とりあえず奴*1がまた来る。すべてはそれが終わってからだ」

*1:締切