登美彦氏、一年を振り返ろうとする。


 晦日




 登美彦氏はようやく仕事を納めることにして、美味しいものを食べたりお酒を飲んだり煙草を吸ったりし、ハリーポッターのDVDを連続して観賞し、ハーマイオニーの可愛さの変遷について父親と激論を交わしたりした。そんなことをしているうちにこの激動?の一年を振り返る余裕もなく、二○○六年も残り二十分ぐらいとなってしまった。
 もはやいっさいが手遅れであり、なによりも、もう「億劫である」と登美彦氏は言う。
 「このままなしくずしに二○○七年を迎えてしまうのもまた人間として正しいあり方ではないのか。そうではないか。わざわざ一年を総括しなくたって、もうよいではないか・・・」
 登美彦氏はそんなことを言っている。
 登美彦氏はこの一年に自分がなにをなしたか、ほとんど憶えていない。
 二年ぶりに本が二冊出たほかは、大半の記憶は仕事をしているか、文房具を買っているか、神社でカルピスを飲んでいるか、それだけである。
 充実していたのかいないのか、登美彦氏にはまったく分からない。


 「それでは皆様、よいお年をお迎え下さい。『ゆく年くる年』をきちんと見ましょう。これさえ見ているならば、日本人として必要十分な年越しであります・・・」


 森見登美彦氏はなしくずしに年を越そうという魂胆である。