登美彦氏、上機嫌を味わう。


 森見登美彦氏は上機嫌であった。


 あまりにも上機嫌であったので、その上機嫌をよりいっそう深く味わうために、氏は上機嫌である理由をメモに書いた。

 ・昨年から書いていた短編が本日をもって一件落着した。
 ・登美彦式時間管理法を発明した。
 ・地下室の大掃除をして、半分ぐらい綺麗になった。半分とは、ほぼ全部と考えてさしつかえない。
 ・今週末に冥途喫茶へ出かけ、闇鍋を喰う。
 ・ハーマイオニーが美人になった。
 ・きびだんごをまた入手して食べた。
 ・文房具屋でしゃれたクリアファイルを買った。


 単調な日常にこびりついた幸せを、飢えた大蟻食のようにことごとく舐めとる。登美彦氏の歩いた後には、ひとかけらの幸せも残らないであろう。
 「誰にも渡すまい。渡すものか」
 登美彦氏は集めた幸せの上にあぐらをかいて、得意げに一服やっている。