八月某日の深更。
森見登美彦氏は仕事に飽きて、麦酒をごくごく飲みながら、机のまわりを見回していた。そうすると、登美彦氏は我が子たちがずいぶん増えていることにあらためて気づいた。
登美彦氏はたいてい無茶な育て方をするから、どの子もたいてい「やんちゃ」に育つ。
そのやんちゃぶりは、時に登美彦氏を反省させる。
「いくらなんでも無茶だったな」と思うこともある。
登美彦氏は前のめりなので、我が子を読み返すことはあまりない。あんまりキビシイ目で振り返れば、いろいろなことが気になってきて、息苦しくもなる。いったん心を決めて手を離したならば、あれこれ口を出さないほうがよいというのが登美彦氏の流儀だ。
しかし読み返さないからと言って、我が子たちをなんとも思っていないわけではない。
登美彦氏は我が子たちが仲良く並んでいるのを眺めているうちに、彼らの欠点はいつの間にか忘れてしまい、妙に楽しくなってきた。登美彦氏が幼い頃、仕事から帰ってきて我が家で麦酒を飲んでいたときの父親のように上機嫌になってきた。
酔っぱらった登美彦氏は椅子でぐるぐる廻転しながら、ぷつぷつ演説を始める。
「よろしいですか、皆さん!これはみんな私が育てたのです。毎晩、毎週末、こつこつと!一行一行こつこつと!それはもう、それぞれにちぐはぐで凸凹ですが!それは認めざるを得ませんが!しかしみんな正真正銘の我が子なのです。『太陽の塔』も『四畳半神話大系』も『きつねのはなし』も『夜は短し歩けよ乙女』も『新釈走れメロス他四篇』も『有頂天家族』も『美女と竹林』も『恋文の技術』も『宵山万華鏡』も『ペンギン・ハイウェイ』も、みんな私が書いたのです!どうですか!この可愛いやつらめ!なんということだ!みんな私が書いたのです!」
そうして登美彦氏はぐるぐる回っている。
そうすると妻が「お疲れですか?」と心配する。
呆れた親バカぶりと言わねばならない。