柿村将彦『隣のずこずこ』(新潮文庫)

隣のずこずこ(新潮文庫)

 日本ファンタジーノベル大賞2017の受賞作、『隣のずこずこ』が文庫化される。

 森見登美彦氏も出身者であるところの日本ファンタジーノベル大賞がいったん中断され、嬉しくも復活した第一回目の受賞作である。恩田陸氏、萩尾望都氏、登美彦氏という面々でのぞむ初めての選考会だったが、新潮社の人があっけにとられるほどスンナリ決まった。この作品があまりにも面白かったからである。記念すべき再開一回目だったので、関係者みんなでホッとしたのを憶えている。

 今回の文庫化にあたって登美彦氏は解説を書いた。

 文庫解説を書くというのはたいへんむつかしい仕事だが、この作品がまた、どこから手をつければいいのやら見当がつかんという作品である。かといって、べつにむつかしい小説ではまったくない。読み始めたら面白くて途中で止められないぐらいである。しかし、いざ「この小説はいったい何なのか解説しろ」と言われると途方に暮れてしまうのである。へんなことをアレコレ言わなくても面白いことは明白で、じつに小説らしい小説というべきかもしれない。で、「読めば分かる」と言いたくなるところをグッとこらえて、登美彦氏が苦心惨憺ひねくりだした解説については本書を購入してご確認いただければ幸いである。

 選考のために読んだときを含めると、登美彦氏は本作を五回ぐらい読んでいるが、それでも飽きない。やはり傑作であると思う。とはいえ、わけがわからんところは今でもやっぱりわけがわからん。それでいいのである、小説なんて。

 作者の柿村将彦氏は次の作品を執筆中らしい。という噂を聞いてから、もう長いこと経つ。「もうそろそろ完成らしいぞ」という噂を聞いてからも一年経つ。ちょっと心配しないでもないが、こればかりはどうしようもない。そもそも登美彦氏に、他人の仕事ぶりに文句をつける資格はないのである。どうやら今年は『四畳半タイムマシンブルース』の出版だけで終わりそうだ。

 というわけで、『四畳半タイムマシンブルース』もよろしくお願いします。

 

四畳半タイムマシンブルース (角川書店単行本)

 

森見登美彦氏、清風荘へ行く

 本日から、このようなものがオンデマンド配信されている。

 かつて大学生であった昔、森見登美彦氏は出町柳駅百万遍の間を数え切れないほど行き来した。当時「ここはどういう土地なのだろう?」と怪訝に思いながら通りすぎていた塀の向こうには、清風荘という不思議空間が広がっていたのである。収録日、足を踏み入れて驚嘆せざるを得なかった。

 その美しい清風荘にて、登美彦氏が藤原辰史氏と対談してヲリマス。 

 かなり長い映像なので時間のあるときにノンビリどうぞ。

分解の哲学――腐敗と発酵をめぐる思考

分解の哲学――腐敗と発酵をめぐる思考

 

 こちら、対談後半で話題になっている藤原氏の著作である。

 読み終わると、

 「自分は何を『分解』しているのかな?」

 と、考えこんでしまう本である。

『化け物心中』(KADOKAWA)

化け者心中

化け者心中

 

 冲方丁氏、辻村深月氏といっしょに森見登美彦氏が選考委員をつとめている、野生時代新人賞の受賞作である。発売日は十月三十日。登美彦氏は帯にコメントを書くように依頼されたのだが、この凄い小説の凄さを短いコメントでどう表現すればいいものやら、晩夏の奈良盆地をいくら歩きまわっても思い浮かばず、「結局これが精一杯です」ということで、帯コメントは書店にてご確認ください。

 応募原稿を初めて読んだとき、その文章の超絶技巧ぶりに圧倒された登美彦氏は、机に両肘をついて頭を抱え、「天才や……」と嘆息した。

 机上のひとりごとなので大仰な表現をお許しください。

 蝉谷めぐ実氏のご近所には、この奇々怪々な「江戸」がそのまま残っているのではないか、作者はそんな「江戸」の片隅をひらひらしながら、身のまわりのことを書いているのではないか、そんなふうにさえ思われた。台詞は粒ぞろいの美しさ、ひとつひとつがつやつやしている。お正月の皺ひとつない黒豆のごとし!

 で、やっぱりこの文章も今作については大した説明になっていないのだが、まあそんなことはどうでもいいのである。読めば分かる。 

『ほんのよもやま話』と『この本を盗む者は』

ほんのよもやま話 作家対談集

ほんのよもやま話 作家対談集

  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本
 

 ところで、こんな本が出てヲリマス。

 畑野智美さんと森見登美彦氏の対談が収録されている。それにしても、どうして登美彦氏はなんの脈絡もなく藤枝静男の『田紳有楽』を畑野さんに押しつけたのだろうか。「小説とは何か?」と悩みすぎてワケが分からなくなっていた時期にちがいない。『田紳有楽』がおもしろくない、というわけではないが。

 編者・瀧井朝世さんにはインタビューやイベントで何度もお世話になっている。今年の二月、山形で開催された深緑野分さんとのイベントでも直接お会いした。なんとなくコロナのことを心配しつつも、まさか世の中がこんなことになるとは予想もしていない頃であった。まるで遠い昔のようである。

 深緑野分さんの新刊も明日発売。登美彦氏も帯にコメントをよせている。

この本を盗む者は

この本を盗む者は

  • 作者:深緑 野分
  • 発売日: 2020/10/08
  • メディア: 単行本
 

森見登美彦氏、ファンタジーについて語る。

熱帯

熱帯

 
ガラン版 千一夜物語(1)

ガラン版 千一夜物語(1)

  • 発売日: 2019/07/19
  • メディア: 単行本
 

 十一月、森見登美彦氏は、国立民族学博物館西尾哲夫教授とファンタジーについて語るらしい。西尾先生には一昨年の『熱帯』以来、お世話になっている。『ガラン版 千一夜物語』の翻訳も完成したばかり。

 というわけで、詳細は下記をご参照ください。

www.minpaku.ac.jp

 そして今夜はヨーロッパ企画上田誠氏との三度目の生配信である。

 こちらもよろしくお願いいたします。

 

www.youtube.com

 

森見登美彦氏、三度目の生配信をする。

 おかげさまで『四畳半タイムマシンブルース』は着実に増刷を重ね、先日十万部に達したのである。

 とはいえ、あまり得意そうな顔もできない。

 そもそも上田誠氏とヨーロッパ企画による「サマータイムマシン・ブルース」という名高い原作があり、そこへ湯浅政明監督のアニメ「四畳半神話大系」の知名度が加わり、さらに中村佑介氏のイラストレーションが表紙を飾る。登美彦氏ひとりの奮闘努力で成し遂げたわけではなく、目のくらみそうな高下駄を履いている。

 これではなかなか自慢しにくい。無念である。

 ……というような話をするのかどうか、何の話をするのか決まっていないが、9月29日の午後十時から上田誠氏と生配信をする。

 「四畳半タイムマシンブルース」の出版と重版を遅まきながら祝う会。

 お時間のある方は29日に生配信でお会いしましょう。

www.europe-kikaku.com

 ブログでお知らせをするのを怠けてしまったが、下記サイトの「story for you」という企画において、登美彦氏は八月三十一日を担当し、「花火」という掌編小説を書いた。明朗愉快なものを書くつもりが、近年欠乏気味のユーモアを『四畳半タイムマシンブルース』で遣い果たしてしまったらしく、『夜行』を思わせる幻想的なものに仕上がった。

 公開された翌日、登美彦氏が「ちょっとやりすぎたかなあ」とションボリしていたら、めずらしく母親がメールで褒めてくれたのである。

tree-novel.com

森見登美彦氏、遅れに遅れて帳尻が合う。

 今作は八月十一日と十二日の物語である。

 ちょうど今日と明日、作中作外がリンクする。

 というわけで、読むなら今である(だからといって、「明後日以降に読んではダメ」ということはまったくありません)。

 森見登美彦氏がこのようにバッチリのタイミングで本を出せることなどめったにない。それが今作にかぎってどうして可能であったかというと、例によって登美彦氏の執筆が遅れに遅れ、しょうがなく出版を半年延期したからである。延期したらピッタリ夏になった。乗るつもりだった電車に乗り遅れて、「これはもうダメだ」とションボリしていたら、電車のほうも到着が遅れていて、思いがけず乗れてしまったような感じである。

 したがって、威張れることは何ひとつない。

清らかなおっさんたちは清らかな怪獣と化すであろう。

 先日、『四畳半タイムマシンブルース』の増刷が決まった。

 こんなにも早く増刷になるのは小説家人生で初めてのことである。

 出版前、登美彦氏はうじうじと心配していた――もしもこの小説の売れ行きが芳しくなかったら原案者の上田誠氏もションボリの巻き添えになるわけで、さぞかし忘年会は哀しいものになるであろう。我らは涙に濡れつつ冬空に咆哮し、清らかなおっさんたちは清らかな怪獣と化すであろう。寒風の吹きすさぶ鴨川べりは我ら怪獣たちのいるところとなるのだ……Where the Wild Things Are!

 しかし幸いにも、現在の順調な売れ行きは明朗愉快な忘年会を示唆している(コロナの影響には不安があるにせよ)。読者の皆様に感謝いたします。

  さて。『四畳半タイムマシンブルース』の出版にあわせて、「オンライン読書会」なるものが開催される。登美彦氏も初めてのことなので、いったいどんなふうになるのかよく分からないのだが、これもまた、今だからこそできる体験かもしれない。

 ご興味のある方は是非よろしくお願いします。

 https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01dqju113g8jc.html

 

ドロステのはてで僕らは四畳半タイムマシンブルース

  森見登美彦氏、じつに久しぶりの「腐れ大学生」小説である。

 『四畳半神話大系』から十六年、それだけの歳月を超えて、かつて書いたキャラクターをふたたび書くのは容易なことではない。「私」にしても「小津」にしても「明石さん」にしても当時てきとうに書き散らかした筆にまかせて自由に生みだしたものであるから、計算して再現するのは不可能である。

 というわけで、『四畳半神話大系』とまったく同じとは言いにくい。

 一番大きなちがいは、全体的に丸くなったというか、みんな可愛らしくなったという点であろう。主人公の「私」にしてもそうだし、とりわけ「明石さん」がそうである。その理由としては、登美彦氏が歳を重ねて学生時代から遠くはなれたからということもあるし、中村佑介氏によって描かれた「明石さん」があまりにも素敵だったからということもある。素敵なものを素敵に書きたくなるのは人情である。

 とはいえ、この作品を書くことによって、『四畳半神話大系』の世界にふたたび触れることができたのは登美彦氏としても嬉しいことであった。『四畳半タイムマシンブルース』を書くという行為は、まさにタイムマシンに乗って十六年前へ出かけることなのであり、そんな時間旅行を実現できたのはヨーロッパ企画の「サマータイムマシン・ブルース」という作品のおかげである。

 あらためて上田誠氏とヨーロッパ企画のみなさまに感謝したい。

 ところで原案者たる上田誠氏は、タイムマシンというか、タイムパラドックスというか、とにかくそういうたぐいのややこしい現象に対して、あいかわらず興味津々のご様子である。現在公開中の映画「ドロステのはてで僕ら」にそのヘンタイ的情熱が横溢しているのは誰もが認めることであろう。

 ちなみに「ドロステ」とは公式サイトの説明によると、

 「絵の中の人物が自分の描かれた絵を持ち、その絵の中の人物も自分が描かれた絵を持ち……という、無限に続く入れ子のような構図のこと」

 かつて登美彦氏が『四畳半神話大系』を書き、それを上田誠氏が脚本を書いてテレビアニメ化し、さらに登美彦氏が上田誠氏の「サマータイムマシン・ブルース」を『四畳半神話大系』の世界に持ちこんで小説化したわけだが、これを上田誠氏がふたたび脚本化してアニメ化するようなことにでもなったら……この清らかなおっさん二人組によるキャッチボールこそドロステくさい。文学的ドロステくさい。

 というのは冗談であるが、『四畳半タイムマシンブルース』というタイムマシン作品が出版される夏、こちらもまたタイムマシンをめぐる映画「ドロステのはてで僕ら」が公開される――これも何かの御縁である。運命の赤黒い糸である。

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