『化け物心中』(KADOKAWA)

化け者心中

化け者心中

 

 冲方丁氏、辻村深月氏といっしょに森見登美彦氏が選考委員をつとめている、野生時代新人賞の受賞作である。発売日は十月三十日。登美彦氏は帯にコメントを書くように依頼されたのだが、この凄い小説の凄さを短いコメントでどう表現すればいいものやら、晩夏の奈良盆地をいくら歩きまわっても思い浮かばず、「結局これが精一杯です」ということで、帯コメントは書店にてご確認ください。

 応募原稿を初めて読んだとき、その文章の超絶技巧ぶりに圧倒された登美彦氏は、机に両肘をついて頭を抱え、「天才や……」と嘆息した。

 机上のひとりごとなので大仰な表現をお許しください。

 蝉谷めぐ実氏のご近所には、この奇々怪々な「江戸」がそのまま残っているのではないか、作者はそんな「江戸」の片隅をひらひらしながら、身のまわりのことを書いているのではないか、そんなふうにさえ思われた。台詞は粒ぞろいの美しさ、ひとつひとつがつやつやしている。お正月の皺ひとつない黒豆のごとし!

 で、やっぱりこの文章も今作については大した説明になっていないのだが、まあそんなことはどうでもいいのである。読めば分かる。