登美彦氏、告白する。


 有頂天家族


 今日はたいへん涼しい一日であった。
 登美彦氏は最近、あれこれとこづき回されるように忙しかったので、本日は部屋でユックリしようと考えた。
 それでも基本的には机に向かうのが登美彦氏の偉いところだ。 
 あんまり偉いと思ってくれている人がいないようだが、しかし登美彦氏は偉いのである。
 一生懸命書くのである。
 そして、世の中の人というのはたいてい登美彦氏よりも頑張っているものであるから、ここであんまりこういったことを主張するのは大人げないことなのである。
 したがって高倉健のように寡黙である方が登美彦氏の男ぶりを挙げるには良いのだが、しかし筆者は敢えて主張してしまう。
 「登美彦氏は頑張っている!」と。


 ふいに秋がやってきたように涼しく、執筆の合間に万年床でころころしていると、何やら無性に気持ちがいい。
 薄汚れているはずのシーツがなにやらスベスベするでわないか!
 登美彦氏は万年床でころころしながら、ふだんは苦手なミステリなどがふいに読みたくなり、先日買っておいた有栖川有栖氏の『双頭の悪魔』を読みだした。


 双頭の悪魔 (創元推理文庫)


 そして鉄砲水で橋が流されるところでわくわくした。
 「陸の孤島陸の孤島!」
 登美彦氏はうめいた。
 「陸の孤島へ行きたいなあ!」
 どうやら現実が嫌らしい。
 

 森見登美彦氏はできあがった『有頂天家族』を撫でている。
 新しく生まれた子は、できるだけ愛をこめて撫でてあげる方が成長がいい、と登美彦氏は主張する。
 しかし『有頂天家族』の一番うしろのところに、次回予告が載っているのが気にかかるのである。
 それを読むと、登美彦氏は名探偵コナンのことを思い出す。
 かつて登美彦氏は毎年名探偵コナンの劇場版を友人たちと観に行くことにしていたが、名探偵コナンの劇場版では、必ずエンディング終了後に「第○弾、製作決定!」というのが流れるのである。
 奥付の裏の予告を眺めながら、「ううむ」と登美彦氏は呻く。


 そしてこっそりと呟くのだ。
 「しかし諸君、まだこの世に存在しない作品の予告が載った本がすでに全国津々浦々の書店に積まれていると考えると、なかなかに肝が縮む感じでありますな」


 ようするに登美彦氏は頑張らねばならぬということである。
 健闘を祈る次第である。