登美彦氏、発見をする。


 森見登美彦氏の部屋は、「毛深い子」執筆、その他もろもろのドタバタのために、ほとんど機能を失っていた。
 机のうえには本やFAX用紙やメモ帳が散乱し、台所には汚れた皿が積み上がり、洗濯物は溢れ、床はまた足の踏み場がなかった。このままでは、やるべきお仕事さえゴミの中に埋もれて、何がなんだか分からなくなる。
 登美彦氏は意を決し、片づけに立ち上がった。
 その過程で登美彦氏は驚くべきことを発見したと主張する。


 「朝起きても、なかなか朝食を取れないわけです」
 登美彦氏は同僚の鍵屋さんに言った。
 「なんでですか?」 
 「得意の目玉焼きを作ろうにも、食器がない」
 「買えばいいじゃないですか」
 「いや、食器はあるんです。しかし使えない。ぜんぶ汚れて、流し台に積んである。だからそれを洗わないことには、そもそも目玉焼きを作ることができない。だから朝食がなかなかとれないことになる」
 「ちゃっちゃと洗えばいいのに」
 「ところが、流し台のとなりに洗った食器を入れるカゴがあるんですが、そこも食器がいっぱいで、洗った食器を入れることができないわけです。だからなかなか洗う気になれない」
 「はあ」
 「そこに根本原因があると、鋭い私は見抜いたわけです。乾いた食器をすぐに棚へ戻す。すると、どうだろう。洗った食器は瞬く間に流し台からカゴへ入り、流し台はいつもきれいです。流し台がきれいだから、洗い物をするのも簡単だ。したがって使った食器をすぐに洗うようになる。乾いた食器はすぐに棚へ移され、準備万端だから、すぐに目玉焼きを焼く作業にかかれる。これはものすごい発見です。あんまり嬉しかったので、紙に書いて台所に貼りました。一、乾いた食器はすぐに棚へ入れること。二、使った食器はすぐに洗うこと。どうですか?」


 「それ、常識とちゃいますのん?」
 鍵屋さんは言った。