登美彦氏、近況。


 森見登美彦氏の近況を報告することを長い間失念していたので、どうやってこの記録を再開したものか分からない。


 森見登美彦氏は山本周五郎賞を頂くためにしぶしぶ、凍るに狂うと書く「凍狂」(byうすた京介)へ乗り込み、角川書店にて秘密の打ち合わせをし、罠にはまって連載を始めることになり、『夜は短し歩けよ乙女』を漫画にしてくれている琴音らんまる氏と対面し、ホテルオークラへ行って控え室で怯えていると、選考委員の人たちが続々と入室してきたのでさらに怯えながらご挨拶をし、初めて恩田陸氏に対面して「文藝」にて浮かれて自意識過剰な質問をしたことをお詫びし、同室にいた佐藤友哉氏にはなんとなく恥ずかしくて声がかけられず、やがて授賞式が始まると佐藤氏や恩田氏のみごとなスピーチに圧倒されてしどろもどろとなって自己嫌悪し、受賞パーティではたくさんの人に頭を下げて腰を痛め、ファンタジーノベル大賞の同窓生の人たちに久しぶりに会うことができて心を温め、二次会では書店員の人たちや編集者の人たちにもみくちゃにされ、浅田次郎氏のかたわらに座ったものの一言も有意味なことを喋ることができず己を呪い、三次会では銀座のゴージャスなお姉さんたちがいるお店へ連れていかれて、葉巻をふかして偽ブランデー(=烏龍茶)を飲んだうえにお姉さんたちの肩を抱いて女性ファンを減らし、三次会までついてきた実弟に呆れられ、やがてホテルオークラへ戻ってへろへろのまま祭りのあとの哀しさを味わいつつ眠りについたと思えば、次の日は文藝春秋社にて万城目学氏と対談して初めてまともに意志疎通をし、「万城目氏は聞き上手でスピーチの達人だからきっと出世するであろう」と予言し、授賞式に参加した親族たちと東京駅でおちあって京都へ帰り、そして小説すばるに載せる「狂言金魚」に四苦八苦し、眠さと戦い続け、京都へやってきた雑誌「ダ・ヴィンチ」の人たちからインタビューをうけ、なぜか和服を着せられ、気がつくとホテルの写真室で芥川龍之介風(適当)写真を撮られており、さらに日が暮れてからも肉を食べながら喋り続け、そしてまた眠さと戦い、「狂言金魚」と戦い、柴崎友香氏の『今日のできごと』を読み、『青空感傷ツアー』を読み、才能不足と戦い、瀧波ユカリ氏の『臨死!!江古田ちゃん』があまりにも面白いうえに主人公がほぼ全裸体なので通勤電車内で読むのに色々な意味で悶絶し、そしてまた「ダ・ヴィンチ」の人たちと会い、瀧波ユカリ氏と対談をし、やはり人見知りをしてあまり喋れず、慌ただしくお酒を飲む頃になってようやく瀧波氏と少し打ち解けるかたわら、蒼井優について熱く語り続ける葦田氏の魂の震える音に耳を澄ませ、そしてまた眠さと戦い、「狂言金魚」がすべりこみで完成し、『ぴゅーっと吹くジャガー』の新刊を買い、単身赴任先の天津から一時帰国した父親および弟や母と山本周五郎賞祝い+母の誕生日祝いをし、数々の締切を目前にしてグッタリとソファに倒れ込んだまま微動だにせず、ふと「そういえばありがたくも直木賞の候補にしてもらったのであった」と呟いた。「おそろしいこっちゃ!」


 最近の登美彦氏の動向を、駆け足で紹介しました。