登美彦氏、でかい風呂敷をなんとかしようとする。


 このところ森見登美彦氏の近況を報告していないのは、登美彦氏の日常のほぼ90%の活動が、すべて机上で展開されているからである。登美彦氏が部屋から外へ出ず、日の光を浴びず、体脂肪率10%を記録したからといって、決して登美彦氏は部屋でぐうたらしているわけではないのだ。
 「事件は現場で起こっているんじゃない。机上で起こっているんだ」
 登美彦氏はふたたび言う。


 毛深い子は難産であった。
 とてつもない癖毛がからみあってひっかかり、どうしたって出てこない。
 登美彦氏の直面した困難を別の言い方で表現すれば、「広げすぎた風呂敷は包むのが大仕事」ということに尽きる。風呂敷をなんとか包もうと登美彦氏がうんうん言っているのに、包みきれない狸やら天狗やら人間やらがわらわらと溢れ出してこぼれ落ちる。そいつらをいちいち拾い上げては、登美彦氏は風呂敷へぎうぎう押し込んでいる。


 だがしかし、登美彦氏を悩ませ続けた毛深い子も、明日の夜にはこの世に記念すべき一歩を踏み出すであろう(登美彦氏の体力が続けば)。そうしたら登美彦氏は祝杯をあげ、そして次の仕事にかかるであろう。

 
 「毛深い子、毛深い子、頼むから早く出てきてくれ。もうホント、勘弁してくれ」


 これは登美彦氏の魂の叫びである。