森見登美彦氏は書いている。
書いている。
「書いている!」と登美彦氏は力強く呟く(おそらく編集者の人に対して)。
しかし書いているからといって完結するとはかぎらないのだ。
完結しないかもしれない。
「しかし、それは私の問題ではない」
登美彦氏はつねに現実から目をそむける。
森見登美彦氏が書いているものは腐れ大学生のお話でもなく、かといって可愛い女の子が活躍するようなお話でもない。
たいへん毛深い連中がうごうごするお話である。
そして王道的メロドラマである。
「ムダ毛」を毛嫌いする現代社会において、主要登場人物の八割が全身毛だらけのメロドラマなど、いったい誰が喜ぶのであろうか。女子高生たちにきゃあきゃあ言われる野望を敢えて放棄する登美彦氏のムダ毛に充ちた男気を知れ。
角川書店の小囃子氏や華猫さん、祥伝社の綿撫さん、物好きな書店員の方々の尽力によってわりあい日当たりのいいところへ引き出された登美彦氏も、これでふたたび元いた場所へ退却するかもしれない。
だが、これは戦略的退却である。
「うーん。毛深い毛深い」
登美彦氏は不思議なことを呟きながら、毛深い話を書いている。
結論。
いずれ誕生するかもしれない第五男は、たいへん毛深いということである。