登美彦氏、ぬくまる。


 登美彦氏の小型化した娘は、その小ささにものを言わせ、日本全国津津浦々へもぐりこもうとしているらしい。
 「警戒せよ。知らぬうちに書棚にもぐりこまれている危険がある!」
 登美彦氏は警告している。
 そして、さらにこう言っている。
 「増刷御礼」


 ところでお話変わって。


 登美彦氏はつねづね、仕事中に下半身が寒いと思っていた。
 だからこそ、椅子の上に足を引っ張りあげたりした。
 椅子の上に体育座りをしてキーボードを叩く姿は、怠け者のE.T.のように見えたという。
 しかし今や、登美彦氏は下半身の寒さに震えることはない。
 誕生日プレゼントとして、妹が「あったかい布」をくれたからである。
 兄が三十路街道を無事歩き通せるように、
 彼女はその「あったかい布」をもたらした。
 これが妹の愛である。
 

 その「あったかい布」は、あまりにもあったかい。
 したがって登美彦氏は、その布にくるまってみたりすることも厭わない。
 そしてソファに座ってジッとしてみる。
 そうすると療養中の患者に見える。


 「お兄ちゃん、誕生日プレゼント買ったげる。なにがほしい?」
 「英国の療養中の患者がつかっているような布」
 「なにそれ?」
 「シャーロック・ホームズが療養中にかぶってたみたいなやつ」
 「ふうん」
 そういうやりとりがあった。
 だから、しょうがない。


 「療養!療養!」
 登美彦氏はそう言いながら、あったかい布にくるまり、毛玉の出てくるお話を書いている。
 「ありがとう、妹よ!」