「小説宝石」5月号(発売中)


美女と竹林 第五回「竹林の夜明けは遠かった」


 登美彦氏が暮らしていた四畳半王国(=学生時代)においては、時間と才能の空費は輝かしき勲章であった。人間としての大きさが「無駄なこと」に注いだ時間と才能の多寡ではかられる世界、いかに手のこんだ方法で時間を棒に振ってみせるかで人の値打ちが決まる世界、世間一般と真逆の価値観が支配する世界、どう考えても根本的に間違っているとしか思われない世界、というものが確かに存在する。そこは偉大なる馬鹿王が君臨する地であり、阿呆神へ捧げる祝詞の声は決してやむことがなく、腕におぼえのある選りすぐりの学生たちが、日夜、非のうちどころのないフォームで時間を棒に振り続ける。
 「なんだか面白そうでいいなあ」と言う人がいるかもしれない。
 その人は何も分かっていない。