森見登美彦氏は日々、いろいろなものを受け取る。
賞賛を受け取る。
批判を受け取る。
期待を受け取る。
雑誌を受け取る。
著書を受け取る。
愛を受け取る。受け取りそこねる。
登美彦氏は大きなベーコンのかたまりを受け取った。
登美彦氏は部屋に置かれた唯一の刃物である果物ナイフを振るい、肉のかたまりをそぎ落とす。
そぎ落としているうちに自分がまるで海賊のような、野蛮な気持ちになってきた。
「死人の箱にゃあ十五人―」
ベーコンをじうじう焼き、卵を割りながら登美彦氏は歌う。
「よいこらさあ、それからラムがひと瓶と!」
(スティーヴンソン『宝島』より)
「卵はあるがラムがない!電気ブランしかない!」
登美彦氏は映画「ハチミツとクローバー」のDVDを2枚受け取った。
別々の方角から送られて鉢合わせした瓜二つのDVDを手に、登美彦氏は困惑した。
その「ハチミツとクローバー」密度は登美彦氏の手に負えなかった。
先日学会誌に発表された研究によると、半径5メートル以内に「ハチミツとクローバー」のDVDが2枚存在すると、「自転車で自分探しに出かける」確率が飛躍的に高まるという。たとえそれを避け得たとしても、「仲間といっしょに海へ出かける」可能性を回避することは極めて困難だ。現今の情勢下にあって登美彦氏が自分探しを始めたり、海へ向かって叫びに行ったりすれば、一部の人(編集をなりわいとする方々)が泣くだろう。
登美彦氏はすみやかに1枚を知人に譲り、事なきを得た。
そしてベーコンエッグを食べながら、ハチクロを観た。
登美彦氏は某編集者からの香港みやげを受け取り損ねた。
宅配されてくる途中に盗難にあい、編集者からの愛が溢れてしたたり落ちる手紙も、何だったのか分からない香港土産も、世間の荒波の合間へ連れ去られたのである。
「諸君、このモテモテぶりを御覧じろ」
登美彦氏は述べた。「俺宛ての宅配便までモテモテだ!」
それは違うだろうというのが大方の見解である。