登美彦氏の愛娘、本屋さん大賞の候補となる。


 森見登美彦氏は女性について勉強するために、anan(2007.1.24)の「いまどき男子を手玉にとるための色気の黄金比、習得レッスン」を読み耽っていた。
 そうして、ふむふむと頷きながら「なるほどな!」と呟いた。
 「こんな戦略で来られたら、道ばたの電信柱にでも惚れるであろう。恐ろしいこっちゃ!」
 さらにあちこち読んでいた登美彦氏は、
 「エロい妄想をする。>>自然とエロさを演出できる」
 という文章を読んで驚いた。
 「エロい妄想!エロさを演出!」
 登美彦氏は呻いた。「すごいな!」
 そうして、エロさを演出することに余念のない電信柱を想像した。
 映画『パプリカ』みたいな想像が登美彦氏の脳裏に広がったという。


 なぜ登美彦氏がいそがしい生活の合間を縫ってananを読んでいたか、そもそもなぜ登美彦氏の書棚に一冊のananがあったかというと、取材された記事が載ったからである。ちなみに登美彦氏が「ananから取材される」と言うと、両親は「なんでやねん!」と爆笑したという。さらにいえば、職場の同僚も爆笑したという。
 「エロい妄想・・・」
 登美彦氏はそう呟いたきりしばらく遠い目をしていた。
 やがて気をとりなおし、「男も女もその魅力に首ったけ!」な長澤まさみの研究に没頭した。


 登美彦氏が研究を進めていると、愛娘夜は短し歩けよ乙女がお茶を持ってきた。
 そうして丁寧にお辞儀をした。
 「良いお知らせがあるのです」
 と娘は言った。「わたくし、本屋さん大賞の候補になったのです」
 「おお、愛されているな!」
 「ありがたいことです。なむなむ!」
 「まあ、生んでしまったあとは、もう私の手ではどうにもならないことだからな。おまえはおまえで頑張るのだ」
 「はい」
 「おまえはおそらく私が生み出し得るものの中で、最強に素直で愛嬌のある子だからな。兄さんたちのように気むずかしかったり、人を怖がらせたり、ましてや腐っていたりしないからな」
 「おそれいります」
 そうすると部屋の隅でゴロ寝していた長男太陽の塔 (新潮文庫)が、むやみに怒った。
 「おいおい勘弁してくれ。みんなオレあってのことだろう。もっとオレを尊敬しろ!宇宙的規模のこのオレを!」
 そうすると娘が長男のそばへ行って慰めた。
 「お兄さんはもちろん宇宙的規模ですよ。ご立派ですよ」
 そうすると長男は満足して静かになった。


 森見登美彦氏は以下のように述べる。
 「我が愛娘を応援してくださる方々、また本屋大賞候補というものに選んでくださった書店員の方々に、感謝の意を表します。わけてもフリーペーパーを作ってくださった『まなみ組』の方々には感謝します。素晴らしい紙粘土達磨を作ってくださった方には、最大限の感謝の意を表します。達磨は太陽の塔の模型と並んでおります。生んでしまった作品の活躍ぶりというのは、ほとんど私の手柄ではないのだが、やはり娘の活躍を眺めるのは楽しいものだな!」