登美彦氏、夏を満喫


 「夏」は満喫せねばならないものである。
 これは、この世に生まれて今年も無事に夏を迎えることができた人間の義務である。満喫せねばならないのである。
 己が無能が原因で多忙を極め、「疑似売れッ子状態」になっている登美彦氏であっても、同じことだ。
 登美彦氏はいかに自分が夏を満喫しているか、自慢した。
 「世間の皆様には申し訳ないぐらい夏を満喫している。絶世の夏男ぶりをとくと御覧じろ!男性は羨望の眼差しで、女性は憧れの眼差しで!」


一。
 近所の神社でカルピスを飲むと、初恋の味がした。


二。
 五山送り火をビルの屋上から観る。周囲を取り巻くのは登美彦氏にぞっこんの浴衣姿の美女たちである。


三。
 「ハチミツとクローバー」を八巻まで読破。登美彦氏の胸が鳴る「きゅん」という音が、鴨川の向こうまで響き、「なにごとか」と怯えた犬たちがわんわん吼える。


四。
 クーラーのコントローラーが故障し、クーラーが暴走。部屋が南極になる。「クーラーこそ夏の醍醐味だ」と断じ、登美彦氏は寝ようとしたが寒風が吹きつけて眠れず。凍死しかけた氏は、洗面所へ布団をうつして命をつなぐ。


五。
 机に向かって百枚書く。


六。
 本上まなみさんがゆくゆくはオカンになるというおめでたいことを知る。
 まさに今夏最大の想い出である(本上まなみさんにとって)。



 華々しい成果を振り返って登美彦氏は述べた。
 「有り余る夏の想い出が、耳と鼻から漏れそうだ!」