「金曜倶楽部」
京都には、大正時代から続くという秘密結社がある。
その設立目的は謎に包まれているが、案外ただの仲良しグループだと言う人もいる。その席数はつねに七つと定められ、各座を占める人間たちは、それぞれ七福神の名をもって呼ばれた。ひと月に一度、祇園や先斗町の宴席に迷惑な顔を七つ揃えて、彼らは賑やかな夜を満喫する。泣く子も黙る狸の天敵、「金曜倶楽部」とは彼らのことだ。
なにゆえ我らの天敵であるか。彼らは忘年会に狸鍋を喰うからである。
我が偉大なる父・下鴨総一郎も、金曜倶楽部の鍋として、その生涯をあっけなく閉じた。
金曜倶楽部の誇る悪食が、洛中の狸たちに思い知らせるのは、かつて野山にいた祖先たちを日々さいなんだ恐怖であり、喰うか喰われるかという弱肉強食の掟であり、食物連鎖という自然の摂理である。
かくして我らは思い出す。
喰う者の頂点に立つのは人間であると―