登美彦氏、また地下に籠もる


 森見登美彦氏はまた地下に籠もっている。
 よくもまあ飽きもせずに、と言う人もある。
 「私が世界で一番落ち着く場所は自分の部屋だ」と言う登美彦氏であっても、祇園祭を尻目に一日中、日光も浴びないという生活をすると、いいかげんに腹が立ってくる。どんどん腹が立ちまくる。薄暗い地下室に鍾乳洞のごとく腹が乱立して、もはや足の踏み場もない。
 「締切に対して怒っているのではない」と登美彦氏は述べる。「それほどワタクシ、ぜーたくもんではない」
 登美彦氏が怒っているのは、己が無能に対してである。さらには、自分はあまり頑張らずに七月の登美彦氏に仕事を押しつけた、六月の登美彦氏や五月の登美彦氏に怒っているのである。しかしいくら怒り心頭に発したところで、六月の登美彦氏も五月の登美彦氏も、すでに過去へと逃げ去って、彼らの右頬を音高く殴ってやることもできない。しかも来る八月の登美彦氏は「俺はもう余裕ないぜ」と言って、七月の登美彦氏から引き継ぎを受けようとしない。
 そうして七月の登美彦氏はますます腹を立てるのである。


 「おや、雷が鳴っているぞ・・・」
 登美彦氏はそっと静かにへそを隠した。
 そうして守るほど実はこだわってもいないへそを雷神様から隠しながら、「だるまちゃんとてんぐちゃんが読みてえ」と思った。


 だるまちゃんとてんぐちゃん