締切が、雑用が、地を埋め尽くす大波となって押し寄せてきたので、森見登美彦殿下は大事に温存していた最終兵器を出すことを余儀なくされた。
もちぐま参謀が尻をふりふり、怒り狂う登美彦殿下へ駆け寄った。
「殿下、まさかあれを?」
登美彦殿下がニヤリと不敵な笑みを浮かべると、もちぐま参謀は登美彦殿下のTシャツの裾あたりにぶら下がってイヤイヤをした。
「まだ早すぎます!」
「今使わずして、いつ使うのだ」
そういうわけで登美彦氏は七月から九月にかけて三日間だけ使うことを許される最終兵器「夏季休暇」を使うことにした。
登美彦氏はさらに想像してみた。
「焼き払え!」と登美彦氏が叫ぶと、「夏季休暇」は口からボーっと火柱を吹いて、迫り来る締切たちをやっつける。けれども締切たちはどんどん来る。
「なぎはらえ!」
登美彦氏は一生懸命叫ぶけれども、夏季休暇はどろどろ自堕落に溶けていく。ちっとも役に立たぬ。
「腐ってやがる。早すぎたんだ」
もちぐま参謀がぶつぶつ言う。
その後、夏季休暇はついに崩れ落ちてしまって、たくさんの締切たちが登美彦氏たちを押しつぶして駆けてゆく。
もうダメである。
高台に逃げていた女の子が「夏季休暇、死んじゃった」と呟くと、そばにいる老婆が「その方がいいんじゃよ。締切の怒りは大地の怒りじゃ」と言う。
「あんなものにすがって締切を守って何になろう」
「自分で妄想しているわけだけれども、もはやわけがわからない」
登美彦氏はぶつぶつ言っている。「しかし諸君、よくあることだ!」