登美彦氏、トトロを愛でる。


 森見登美彦氏の妹と弟が東京見物にやってきた。
 登美彦氏は東京に住んで一年半になるが、魂の半分を京都に残してきた上に、机上で大半を過ごしているので、東京の遊び方をあまり知らない。知る努力もしないのは嘆かわしいことである。登美彦氏は「おもしろがらせられるものならおもしろがらせてみろ!」となぜか威張っているのだ。
 つまり登美彦氏は、東京の水先案内人としてまるで頼りにならない。
 そして妹が「ジブリ美術館に行きたい」と言った。


 登美彦氏は妹たちといっしょに三鷹の森ジブリ美術館に出かけた。
 つい先日まで登美彦氏は、ジブリ美術館というのは子どもとその保護者しか入れてもらえないものだと漠然と思い込んでいた。しかしジブリ美術館はその広い心で登美彦氏を受け入れたのである。そしてジブリ美術館の中は見渡す限り子どもだらけで足の踏み場もなかった。
 登美彦氏は彼らを踏みつぶさないように注意しながらうろうろした。
 そして以下の行為を行った。
 ・「風の谷のビール」を飲んだ。
 ・土星座で「めいとこねこバス」を観て、その傑作ぶりに涙した。
 ・おみやげに小さな黒いトトロを買った。


 そういうわけで登美彦氏の広大な邸宅の一角には、小さな黒いトトロがいるのである。 
 登美彦氏はトトロに語りかける。
 「おい、貴君。貴君はなぜ目がへんてこな方向を向いているのだ?」
 さらに問いかける。
 「貴君はなぜ全体的にいびつなんだ?」
 しかし、たとえ目がへんてこな方向を向いていても、全体的にいびつであっても、小さいトトロの血は争えず、つまりこいつは可愛い生き物なのである。


 登美彦氏の邸宅には、他に「だるまちゃん」がいる。
 『てんぐちゃんとだるまちゃん』における「だるまちゃん」である。手足を持つことによって「だるま」の定義そのものに真っ向から挑んでいる、あの「だるまちゃん」である。
 さらには言うまでもなく「もちぐま」もいる。
 トトロとだるまともちぐま
 それぞれが互角の大きさである。
 「まったく違うかたちなのに同じぐらいの大きさの小さいやつが三ついる」
 これは素晴らしい現象なのだ、と登美彦氏は主張している。


 登美彦氏がこの現象に感服していると、妻が詩を作った。


  トトロとだるまとそれからもちぐま
  みんなちがって 
  みんないい


 登美彦氏は少し思案した。
 「どこかで聞いたことがあるな」
 「この詩を発表すればよいのです」
 「それでは盗作になる」
 「きっとバレないと思うのです」
 「必ずバレます」


 そういう夜だったのである。