登美彦氏、凍える、かつ書く、かつクリスマスに備える


 朝起きて地下室から地上へ出ると、一面の銀世界であった。
 真っ白になって、森閑とした街路に、しんしんと雪が降っていた。
 登美彦氏は雪の少ないところで育ったために、雪が降るとにわかに興奮する。興奮しながら駅へ出かけた。
 しかし半ば吹雪となった天候のもと、停留所でバスを待ちながら、登美彦氏は雪にうずもれた。容赦なく寒かった。ゆえに、登美彦氏の雪に対する好印象は台無しとなった。可愛さ余って憎さ百倍というように、氏は雪を罵倒した。
 「ホワイトクリスマスになっちまう!」と氏は呻いた。「などと暢気なことを言っていられる場合ではないぞ。これは命に関わる寒さだ!」
 皇帝ペンギンたちがいかに偉いかということが骨身に染みて分かったと、登美彦氏は知人に語った。


 そして今宵も登美彦氏は書きものをした。
 「ナントカマスが今年もやってくる」と氏はおどろおどろしい口調で呟いてみた。なんとなく、ナントカマスが不気味な獣のように思われて、氏は恐ろしくなった。
 「締切も一緒にやって来る」
 そう付け足して、登美彦氏はちょっと気の利いたことを言ったような気分になったが、落ち着いてみると、べつにそうではなかった。
 登美彦氏は不愉快になり、書くのをやめて寝ることにした。
 「今日はここまで」


 就寝前、クリスマスに備えて、「Father Christmas」を登美彦氏は観ることにしている。
 「これはつらく厳しい訓練だが、いずれ役に立つ日が来る」
 今日も登美彦氏は鍛錬に余念がない。