登美彦氏、呟く。


 森見登美彦氏は夏を満喫することもなく、机に向かって呻いている。
 「終わっていく・・・いろいろなものが終わっていく・・・」


 「美女と竹林」が。


 「恋文の技術」が。


 「ヨイヤマ万華鏡」が。


 「ペンギン・ハイウェイ」が。


 そして、二十代最後の灼熱の夏が。


 「なんでみんないっぺんに終わるんだ。淋しいではないか!」
 登美彦氏がそんなことを言っていると、机の脚にしがみついてラムネをクイッと飲んでいた締切次郎が、ちょっと嬉しそうな顔をする。
 登美彦氏は忌々しそうに舌打ちした。
 「おまえに言ったんじゃない!」