イベント、出版、連載のお知らせ

 
 


 森見登美彦氏が直木賞との対決にそなえて英気を養っている間、さまざまな出来事があった。
 まずは下鴨神社にて、アニメ「有頂天家族2」の成功を祈願するイベントがあった。かわいい狸ポンチョをかぶった毛玉たちが大勢集まってお祈りをするとともに、アニメ「有頂天家族」の「京都特別親善大使」への任命式が厳かにとりおこなわれたのである。
 冬の糺の森はたいへん冷えこみ、和服姿だった登美彦氏はただでさえ震えていたが、任命式に姿を見せた門川大作京都市長から、
 「第三部はまだですか?」
 と催促されて肝を冷やした。
 まだなのである。どうしようもないのである。
 原作の動向はひとまず脇において、春から始まるアニメ「有頂天家族2」を宜しくお願いいたします。


 


 河出書房新社からこのような本が出る。
 池澤夏樹さん、伊藤比呂美さん、町田康さん、小池昌代さんという錚々たる人たちの中に、登美彦氏がこっそり混じっている。これは以前、ジュンク堂書店池袋本店で開催された連続講義を書籍化したものであり、登美彦氏は『竹取物語』について個人的に思うことを語っている。べつにムツカシイことを喋っているわけではないので、竹取物語に興味がある人もそうでない人も、お読みいただければ幸いである。

 
 

小説 - BOC - 4

小説 - BOC - 4


 また、中央公論新社から小説BOCの第四号が発売される。
 特集において森見登美彦氏が「ヴィクトリア朝京都」なるものをさまよう、という強引きわまる企画が展開されている。「こんなもの、すべて妄想じゃないか」と言われても返す言葉はまったくない。妄想するのがお仕事である。
 第四号には新連載「シャーロック・ホームズの凱旋」の第二回、「赤毛連盟(後篇)」も掲載されている。かの名探偵ホームズを文字通り丸裸にする小説を書いてしまったので、今になって登美彦氏はなんだか申し訳なく思っている。しかし今さら手遅れである。
 現在、森見登美彦氏は第三回を準備中である(心のどこかで)。


 最後にイベントのお知らせである。
 大阪南船場のバー「リズール」にて、登美彦氏はトークイベントを行う。以前にも一度、玄月さんに誘われて出かけたイベントである。おそらく何かぷつぷつと喋ることであろう。
 予約制なので、詳細はwebページで確認してください。
  http://www7b.biglobe.ne.jp/~liseur/
  第61回 Creator’s NEST
  日時:2月19日(日) 16時〜(15時半開場)
  料金:ワンドリンク付き2000円

森見登美彦氏、直木賞に敗北する。

 夜行


 昨日、森見登美彦氏は京都駅の新幹線ホームに立っていた。
 ボーッとしていると、声をかけてくる人があった。
 誰かと思えば本上まなみさんだった。
 登美彦氏は驚いて「うわ!」と言った。
 本上さんは笑っていた。
 「これから東京ですか?」
 「今日は直木賞の選考会でして……」
 登美彦氏が言うと、本上さんは「ああ!」と察してくれた。
 それにしても新幹線で本上さんと偶然会うなんて初めてのことである。
 「これが直木賞のチカラか!」
 登美彦氏はそう思ったのである。


 待ち会は文京区某所の某中華料理店の二階で開かれた。
 まるで親戚の家みたいな心地よいところである。
 やがて五時を過ぎると国会図書館の元同僚や各社の担当編集者の方々が集まってきて、みんなで美味しい中華料理を食べた。聞くところによると冲方丁さんもどこかで待ち会をしているらしい。どんなところでやっているのだろうか、冲方さんも同じ緊張感を味わっているのかな、などと考えながら登美彦氏はウーロン茶ばかり飲んでいた。
 登美彦氏が直木賞の候補になるのは二度目で、一度目は『夜は短し歩けよ乙女』で候補になった2007年のことだった。あの頃、登美彦氏はまだ国会図書館の関西館に勤めており、直木賞の候補になったといわれても実感がなかった。だから「待ち会」のようなオオゲサなこともしなかった。しかしあれから十年が経ち、せっかく二度目に候補になったのだから、噂に聞く「待ち会」というものを経験してみようと思ったのである。
 それにしても電話を待つのはイヤなものである。
 落ちるのなら落ちるので全然かまわないのだが、落ちましたとハッキリ言われるまでは落ちていない。なんだか自分がシュレディンガーの猫的な宙ぶらりんな存在になったかのようである。そうそう、こんな感じだった――と登美彦氏は十年前のことを思い返した。
 そして七時過ぎに電話が鳴った。
 まわりの人たちがシンと静まり返る中、登美彦氏は電話を取った。

 
 待ち会は速やかに残念会に変身し、午後九時に散会となった。
 そこから先は、登美彦氏と『夜行』担当編集者ふたりの残念会となる。登美彦氏たちは待ち会の参加者たちに見送られて東京駅へ向かい、午後十時発の寝台列車サンライズ瀬戸」に乗車したのである。
 サンライズが走りだすと東京の街の灯が遠ざかった。
 担当編集者がシャンパンを開けた。
 ふたりはこれまでに出かけた旅の思い出などを語りつつ、シャンパンを飲みながら夜の底を西へ走っていった。彼らは幾度も寝台列車に乗って旅をしてきたが、今回の旅の味わいはまた格別なものだった。
 熱海を通りすぎ、浜松も通りすぎた。
 異世界のような夜がどこまでも続いていた。
 担当編集者が車窓を眺めながら、
 「本当に『夜行』の世界ですね」
 と感に堪えぬように言った。
 車窓を流れていく街の灯を眺めながら、シャンパンを飲むのは素晴らしい。『夜行』を読まれた方は、ぜひ一度サンライズにご乗車されることをおすすめする。
 「今日は充実した一日だった」
 と登美彦氏は思った。


 翌朝、登美彦氏と編集者は岡山駅で降りた。
 サンライズ瀬戸は京都に停車しないのだからしょうがない。
 まだ夜明け前の薄暗い街をさまよい、ようやく見つけた喫茶店「ポエム」でモーニングセットを食べた。編集者が棚から取ってきた朝刊には、すでに恩田陸さん直木賞受賞のお知らせが掲載されている。どうして自分はいま岡山の喫茶店の片隅にいるのだろうと不思議な感じがする。登美彦氏はシャンパンの飲み過ぎと睡眠不足であくびばかりしていた。珈琲を飲んで暖まっているうちに岡山の空は白々と明けてきた。
 「岡山を満喫した」
 「満喫しましたね」
 「それでは奈良へ帰るとしよう。このサンライズの切符は落選記念として大事にする」
 「いずれまた」
 「いずれ……あるのかなあ」
 彼らはそのまま東へ取って返した。
 編集者は新幹線で東京へ。
 登美彦氏は新幹線で京都へ、さらに奈良へ。


 そういうわけで登美彦氏が自宅へ帰り着いたのは午前十時だった。
 へろへろで帰ってきた登美彦氏を妻が迎えた。
 「おかえりなさいませ」
 「落ちてしまった」
 「敗北するのもお仕事ですから」
 「……そうとも。そして日はまた昇るサンライズ!」
 「おつかれさまでした。お風呂が沸いてますよ」


 恩田陸さん、受賞おめでとうございます。
 心よりお祝い申し上げます。

 
 蜜蜂と遠雷

「四畳半神話大系」「有頂天家族」の再放送について


 劇場アニメ「夜は短し歩けよ乙女」とTVアニメ「有頂天家族2」の制作決定に合わせて、「四畳半神話大系」「有頂天家族」がそれぞれ再放送される模様である。
 この機会に御覧いただければ幸い。

 
 アニメ「四畳半神話大系
 TOKYO MX:2017年1月8日より 毎週日曜24:30〜
 BSフジ:2017年1月13日より 毎週金曜24:30〜


 アニメ「有頂天家族
 KBS京都:2017年1月6日より 毎週金曜 深夜1:00〜
 BS11:2017年1月7日より 毎週土曜 夜11:00〜
 AT-X:2017年1月9日より 毎週月曜 深夜0:30〜


 


 

年頭之感


謹賀新年



 「ともかく十周年は終わりましたよ」
 筋骨隆々の2016年氏はそう言った。
 「ともあれ、これで前へ進めるわけですな」
 2016年氏は肩の荷を下ろしたようにホッとした顔つきで去っていった。


 「年末年始に立て籠もりたい」
 森見登美彦氏はつねづねこのように思っている。
 思えば立て籠もってばかりの人生であった。
 学生時代は四畳半に立て籠もり、小説家としてデビューしてからは妄想の京都に立て籠もり、仕事に破綻をきたした2011年以降は奈良盆地に立て籠もってきた。そんな登美彦氏にとって「年末年始」という時空はひどくステキなものである。時間の流れがゆるやかに感じられ、みんなが優しくなり、慌ただしい日常から日本全国が切り離されたようになる。クリスマスから仕事納め、大晦日を経て、お正月の三が日。ずっと年末年始を繰り返すだけで生きていけるなら、どんなに素晴らしいことだろうか。
 しかしそういうわけにはいかないのである。


 登美彦氏は妻と一緒に2017年氏を迎えた。
 「明けましておめでとうございます」
 2017年氏は髪をキチンと撫でつけた背広姿で、いかにも仕事ができそうな佇まいであった。昨年、2016年氏はその腕力で登美彦氏を恫喝することによって呪われた十周年の幕を引いたが、2017年氏からは2016年氏にはない狡猾さのようなものが感じられた。
 「これから私の述べることはあくまで参考意見であります」
 2017年氏は森見家の居間でお雑煮を食べながら言うのであった。
 「あなたは毎年こう思いませんか。六月が来たとき、『え!もう一年の半分が終わったの?』と……」
 「思います思います」
 「それはなぜだか分かりますか?」
 「歳を取るにつれて月日の経つのが早く感じられるから……」
 「ちがいます!」
 「ちがうの?」
 「あなたは一月から三月を新年だと思っていないからです。いわば旧年のオマケだと思っている。そして四月がくるとようやく頭が新年に切り替わり始める。だから六月が来たときに、決まって時の流れの速さに驚くのです。そんなのアタリマエではないですか。一月から三月を旧年のオマケとしてボンヤリ過ごすことによって、タップリ三ヶ月分、あなたは世間に遅れを取っているのだから!」
 「一理あるな」
 登美彦氏が言うと、妻も「一理ある」と言った。
 「しかしねえ、エンジンが暖まるには時間がかかるものだから」
 登美彦氏が言うと、妻は「そうですねえ」と言った。


 やがて2017年氏は大きく「先手必勝」と書いた半紙を取りだし、居間の壁にぺたぺたと貼り始めた。やる気に充ち満ちた暑苦しい字体で、森見家の居間にはまったく似合わない。しかし年始早々2017年氏と喧嘩したくないので登美彦氏は黙っていた。
 2017年氏は壁に貼った半紙を見上げて言った。
 「あなたに必要なのはこれです」
 「そうかなあ」
 「すでに新年は始まっている。この確固たる事実を受け容れることです。そして、これまでないがしろにしていた『一月から三月』にこそ、いっそ燃え尽きる覚悟で努力しなさい。なにごともスタートダッシュが肝心。やらねばならぬこと一切を春までに終わらせればビッグな男になれます」
 「うへえ。年末年始に立て籠もりたい」
 登美彦氏は呻いた。
 「わがまま言っちゃいけません」
 2017年氏は厳しい口調で言い渡した。
 「今日のところはこれにて失礼。春日大社にもまわらねばなりませんから」


 玄関先まで2017年氏を見送った登美彦氏が居間へ戻ってみると、妻が「先手必勝」の半紙をいそいそと壁から剥がしていた。妻は正座して丁寧に半紙を折りたたむと、台所のゴミ箱にポイと捨て、登美彦氏に向かって敬礼した。「片付け完了いたしました」
 「それでよし」
 登美彦氏はそう言うと、新しい半紙に次の文言を書いて壁に貼った。
 「読者の期待にこたえない」
 それが新年にあたっての登美彦氏の抱負である。
 

 本年も宜しくお願いいたします。

「太陽の塔潜入記」(「本の旅人」)


 太陽の塔 (新潮文庫)


 「本の旅人」(2017.1)において、万城目学氏と森見登美彦氏があの「太陽の塔」内部へもぐりこんだ記録が掲載されている。
 太陽の塔の内部公開には恐ろしい数の応募者が殺到している、ということだったので、登美彦氏は「これは無理だナ」と早々に諦めて奈良盆地にてボーッとしていたのであるが、その一方で現実家にして暗躍家の万城目氏は決して諦めず、さまざまな伝手を頼ってこの企画を実現させた。ということで登美彦氏はなんの努力もしていないのに、ただ万城目氏の誘いに乗るだけで、太陽の塔の謎に充ちた腹の中へもぐりこむことができたのである。
 その顛末については万城目氏と登美彦氏の対談をご一読いただきたい。

『夜行』を読み解くための「10」の疑問


 夜行


 小学館の『夜行』紹介サイトに、
 『夜行』を読み解くための「10」の疑問
 という新しいコーナーができた。


 こちら→ http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/10Q.html


 これらの疑問に答えられなければならぬ、ということではありませぬ。
 答えられなくても全然かまわない。
 唯一の答えがあるともかぎらないのである。

小説新潮(2017.1)

 

小説新潮 2017年 01 月号 [雑誌]

小説新潮 2017年 01 月号 [雑誌]


 小説新潮1月号に「日本ファンタジーノベル大賞2017 選考委員座談会」と題して、恩田陸さん、萩尾望都さんとの座談会が掲載される。
 森見登美彦氏は13年前の2003年、『太陽の塔』という小説で日本ファンタジーノベル大賞を受賞して世に出た。あたりまえのことだが、そのときはまさか自分が選考委員になる日がくるとは思っていなかった。
 自分が選考委員であるという事実が登美彦氏にとってはすでにファンタジーである。そして恩田さん萩尾さんと、新潮社の重厚な会議室の長いテーブルをはさんで座談会をするという経験もファンタジーっぽい。そんなことがあり得るのだろうか。あの座談会はマボロシだったのかもしれないと登美彦氏が思い始めたとき、掲載誌が送られてきたのでマボロシではなかったと判明した。
 2003年、日本ファンタジーノベル大賞が登美彦氏の運命を決めた。
 「君は妄想しててよし」
 登美彦氏はそのような「お墨付き」をもらったと思いこんだわけである。


 日本ファンタジーノベル大賞2017
 http://www.shinchosha.co.jp/prizes/fantasy/

「夜は短し歩けよ乙女」劇場アニメ映画化


 夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 
 


 公式サイト http://kurokaminootome.com/ 


 「出世作」と呼ばれるものがある。
 『夜は短し歩けよ乙女』は間違いなく出世作である。
 この作品は薄暗い四畳半世界に天から射しこんできた一条の光というべきであった。もしこの作品が存在しなかったら、登美彦氏は暗い四畳半世界の片隅をぐるぐるし続けて自家中毒を起こしていただろう。「黒髪の乙女」は当時二十代であった登美彦氏を新世界へ連れだしてくれたのである。それから今日にいたるまで、登美彦氏はこの作品の遺産に頼って生き延びてきた。誕生から十年、またしても吉報をもたらしてくれた愛娘に対して登美彦氏は感謝するしかない。なんと親孝行な娘であることか。
 湯浅政明監督をはじめ、アニメ「四畳半神話大系」に携わった方々の再集結も嬉しいことである。紆余曲折あって六年後の実現ということになったが、「終わりよければすべてよし」となることを登美彦氏は祈る。
 来年四月の公開までに「四畳半神話大系」も観ていただけると幸いである。

 

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)


 


 来年は「有頂天家族2」と「夜は短し歩けよ乙女」が世に出ることになる。
 「まるで祭りのようだ!」
 と登美彦氏は呟いている。 

森見登美彦氏、右往左往する。


 

ダ・ヴィンチ 2016年12月号

ダ・ヴィンチ 2016年12月号


 雑誌「ダ・ヴィンチ」において、森見登美彦氏の十周年記念おわり記念特集がおこなわれている。登美彦氏のインタビュー、能登麻美子さんとの対談、さまざまな方からのお祝いコメント等、じつに盛りだくさんの内容である。十周年をさんざん延長した挙げ句にこのような立派な特集をしてもらえるとは思っておらず、登美彦氏は送られてきた雑誌をめくりながら「ありがた申し訳ない」感じに包まれている。「十周年を終わらせるのに十三年かかった」という自分の恥をわざわざ宣伝しているわけだが、もう開き直るしかないのであった。やむを得ぬ!
 ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。


 先週末、登美彦氏は福山、広島の書店を訪ねた。
 温かく迎えてくださった書店員の皆様に登美彦氏は深く感謝している。
 広島カープのパレードを翌日にひかえた広島はすがすがしい秋晴れで、広島風お好み焼きや路面電車の乗り心地を味わうことはできたものの、出版社の皆様が知恵を絞って練り上げたアクロバティックなスケジュールであったがゆえに、書店員の皆様の歓待に後ろ髪を引かれつつも、登美彦氏は疾風のように去るほかなかったのである。いつの日か登美彦氏は広島の街を再訪し、今度は穏やかな春風のようにさまよいたいと願っている。
 また翌日、登美彦氏は大阪の書店をうろうろしてサイン本を作り、グランフロントにある紀伊國屋書店にてサイン会もした。
 紀伊國屋書店の皆様、そしてサイン会にお越しいただいた読者の皆様に登美彦氏は深く感謝している。


 嵐のような時間が過ぎ去って、登美彦氏は奈良の静けさの底にて安らいでいる。
 しかしいつまで安らいでいられるのか。
 次なる締切次郎が登美彦氏を脅かしている。