森見登美彦氏、新刊を待つ。

 
 よつばと! 12 (電撃コミックス)


 森見登美彦氏は『よつばと!』の新刊を待っているが出ないのである。
 しかし「新刊が出ない」ということについては、色々な人が色々な事情を持っていることを、登美彦氏はいやというほど知っている。
 もっと我々はやさしさを持たねばならぬ。


 「スケールの大きな古事記的時間に身をまかせるしかないな」
 登美彦氏は言ったが、妻は「いやです」と言った。
 「なぜなら『よつばと!』が読みたいのは厳然たる事実」
 「贅沢を言ってはならん」
 「どうして言ってはいけないの」
 「そもそも私に人様の新刊を『待っている』などと言う資格があろうか。『有頂天家族』の続編は、そもそも昨年の夏に出版され、アニメ化の勢いに乗じておおいに盛り上がるはずであった。それがどうだ。アニメ化のタイミングを逃してビジネスっ気のなさを満天下に宣伝したばかりか、アニメ放映が終了した秋になっても出ず、もはや完全に手遅れとなった冬になっても意地のように出ず、ふたたび季節がめぐり二度目の夏がやってきてもなお出ない。調子にのって『十周年記念作品』などという愚かな宣言をしてしまったばかりに、本が出ないかぎり十周年に終止符を打てず、十周年という恐るべき時空に閉じ込められたまま歳もとれない。迂闊なことをしたものだ。かくも情けない三十路のピーターパンが人様の仕事ぶりに口を出すとは言語道断!」
 登美彦氏はたいへん怒った。
 そうすると妻がもっと怒った。
 「よそはよそ!うちはうち!」


 しかし実際のところ、いつまでも十周年を延長しているわけにもいかないのである。
 「そろそろマジメにやらねばならぬ」
 そういうわけで登美彦氏は禁断の儀式を始めた。
 この儀式とは、生贄たる「ひこにゃん」のぬいぐるみを中山式快癒器に寝かせて神棚にそなえ、その前で「傑作おどり」を踊ることによってインスピレーションの訪れを促すものである。
 登美彦氏の一日の大半はその儀式に費やされた。


 その甲斐もあって、『有頂天家族』第二部の初稿は本日をもって完成した。
 これからは地道にコツコツと手直しの日々が続くが、まさかこの期に及んで卓袱台をひっくり返すという大技が許されるはずもなく、また登美彦氏にそんな元気はない。
 いずれ来年にでも、キチンと世に出ると信じたいものである。