登美彦氏は『聖なる怠け者の冒険』が京都本大賞になったと聞いた。
しかしながら、登美彦氏が書いているのは偽京都である。
「ひょっとすると偽京都本大賞を貰ったのでは?」
「狸たちが授与しているのでは?」
登美彦氏はそのように考えて本気にしなかった。
よかろう、彼らがその気ならば期待にこたえて、偽森見登美彦を授賞式へ送りこむべきであろう。偽森見登美彦が偽授賞式で偽京都本大賞を貰うならば八方毛深く、丸くおさまる。登美彦氏はそうするつもりだったのだが、有頂天家族第二部の書き直しに忙しくて、適当な影武者を見つける暇がなかった。
「ちぇっ、しょうがないなあ。狸どもめ!」
そうして登美彦氏が化かされる覚悟で出かけていくと、ぽんぽこっぽい人たちが大勢いて狸気濛々としていたので、登美彦氏は「ほら見ろ。やはりな」と思った。しかし大賞はホンモノであった。狸っぽいのは、ぽんぽこ仮面のお面をつけた書店員の方々だったのである。
登美彦氏はおおいに恐縮した。
下記、「みんなのミシマガジン」で授賞式について触れられている。
http://www.mishimaga.com/hon-kobore/048.html
登美彦氏はユッタリした記者会見っぽいものをしたり、書店員の方々と喋ったりして、記念品をもらって帰った。
なにしろ小説はふわふわしたもので、まるで青空を流れていく白い雲を作るようなステキに地に足つかない仕事であるから、この記念品のように手で触れて棚に飾れるカッチリしたものを貰えることを登美彦氏は喜ぶ。
そういうわけで登美彦氏は記念品を仕事場に飾った。
へんてこなものがたくさん写っているのに、肝心の受賞作が写っていないのは、写すのを忘れたからである。
ところで本日、登美彦氏が妻といっしょに近所のクリーニング店へ出かけていくと、店員の人に「第二部が出るというから、『有頂天家族』の第一部を読んで復習してます!」と言われた。
このような方に出逢うと登美彦氏は恐縮するしかない。「ありがたやー」
ちなみに登美彦氏は、その後卓袱台をひっくり返すようなこともなく書き直しを進め、すでに『有頂天家族』第二部の執筆を終えた。登美彦氏は身体中にまとわりついた狸の毛を払い、天狗や狸がうごうごする偽京都にサヨナラして、次なる新天地を求めて早くも旅立ちつつあるが、担当の編集者氏はこれからいよいよ頑張らねばならない。おつかれさまである。
以上、「ちゃんと仕事をしてます」という、さりげないアピールに他ならない。