「YomYom」 4号


特集「ブンガク散歩に出よう」


「登美彦氏、京都をやや文学的にさまよう」


 そこで登美彦氏は、学生時代、五年に亘って苦楽をともにした戦友と、西田幾多郎善の研究』を読もうと企てたことを思い出した。彼らは京都に世話になっているから、せめて恩返ししようと考えたのだ。哲学の道で『善の研究』について議論する姿を見せれば、学生も観光資源として重んじられるだろう。「うまくいけば、京都府知事に褒めてもらえるかもしれん」と彼らは言った。「たとえそれが無理でも、京都へ旅行に来た黒髪の乙女に褒めてもらえるかもしれん」
 彼らは一念発起して、それぞれ『善の研究』を買って読みだしたが、第一編第一ページ目で挫折した。落ち着いて「序」を読んでみると、初めて読む人は第一編を略すがよい、と書いてあるではないか。「どうりで分からないはずだ!」と気を取り直して第二編に取りかかったが、また一ページ目で挫折した。そして彼らは京都府知事に褒めてもらう機会を逸し、黒髪の乙女に褒めてもらう機会もまた逸したのである。