「小説宝石」4月号(発売中)


美女と竹林 第四回「机上の竹林」


 阪急電車で四条へ戻ると、紅葉目当ての観光客が雨で行き場を失って街へ流れこんだらしく、たいへんな混雑である。
 錦市場の人気ぶりときたらもうお話にならない。
 彼らは喫茶店を探してうろつきながら寿司詰め状態の錦を抜けていったが、ようやく一軒の喫茶店を見つけたので、そこで打ち合わせをすることにした。なんだかよくわからない、町屋を改築したような店である。彼らは店員に狭い階段をどんどん上らされたあげく、黒々と横切る大きな梁が客人の脳天をおびやかす秘密の屋根裏へ押しこめられた。小さなテーブルをかこんであぐらをかき、三人の男は狭苦しさと蒸し暑さにふうふう言いながら睨み合った。そして階下から大音量で流れてくるアニメ「魔女の宅急便」の音楽に耳を澄ませた。
 「なぜ我々がこんな目に」と鱸氏が言った。「これが一見さんに対する仕打ちですか」
 「悪いことばかりではない。屋根裏に匿われている維新の志士ごっこができます」と登美彦氏が言った。「土佐の森見登美彦じゃ!新撰組がマジで恐いぜよ!」
 「『ぜよ』をつければそれで済むと思っていませんか。甘い考えですよ」
 「京都は奥が深いですねえ」と大口氏が前向きに感心した。「歴史を感じますねえ」