「別冊文藝春秋」9月号


 森見登美彦氏と万城目学氏の対談が載っている。
 西国一の聞き上手として名高い万城目氏の術中にはまり、ちゃんと話すのは初めてのくせに登美彦氏がべらべらと喋っている。
 まことに情けないことである。


 登美彦氏は以下のように語っている。
 「万城目氏からもらったアリンコ観察セットは、いまだ活躍していない。アリンコを捕まえる機会がなく、部屋の中に虫がいると恐いからである。たとえ七匹のアリンコであろうとも、寝ている間に逃げ出したら、どこかへ運んでいかれるか知れない。したがってまだ実地に試せない。万城目氏には深くお詫びする次第である。いずれアリンコを捕まえる機会を得たら報告する」


 登美彦氏は最近、万城目氏の動向について色々な方面から情報をこっそり仕入れるのを数少ない趣味の一つとしていることを関係者に明かした。情報収集して万城目氏に一歩先んじようという魂胆であろう。登美彦氏が駆使する情報機関は「森見機関」と呼ばれ、その構成員については謎に包まれているが、十中八九、編集者の人だと思う。
 「私も万城目氏のように、部屋つきの執事を堂々と使える人間にならなくては」
 登美彦氏はそんなことを言っているが、何のことだか分からない。
 おそらく関係者には分かるのであろう。