- 作者: 小説宝石編集部
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/08/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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森見登美彦氏の掌篇「聖なる自動販売機の冒険」が掲載されている。
ちなみに『聖なる怠け者の冒険』とは一切関係ない。
ところで先日、登美彦氏は「流しそうめん」を食べた。
万城目学氏の呼びかけにこたえて、東京郊外の不思議な料亭に四人の小説家が集まったのである。
流れるそうめんをつかまえるのはムツカシイ。登美彦氏の箸先を逃れたそうめんは下流へいく。下流でひかえているのは万城目氏である。ほかの三人が逃した全そうめんは、流れ流れて万城目氏の目前にことごとく淀む。
皆が逃したそうめんを一手に引き受けさせられる万城目氏の屈辱は察するにあまりあるが、登美彦氏は「ほらほら万城目さん、目の前でそうめんがわだかまってますぞ」などと言い、決して席を替わろうとはしないのである。
このあたりに登美彦氏の人間的限界がある。
そのうち、万城目氏のおそろしい力が話題になった。
「自分の応援している知人たちが最近やたら災難にあう」
具体例を挙げるのは遠慮するが、たしかにそのきらいはある。
それにひきかえ、登美彦氏が応援する人たちはみんな幸せになっている。それどころか、読者の方々も次々と幸せを掴んでいく。以前から「登美彦神社」を設立してお賽銭を集めたほうが儲かるのではないかと言われているほどである。
「人徳と言わねばなるまい」
登美彦氏は胸中で呟いた。
ところが。
その話題が出てからというもの、万城目氏が盛んに登美彦氏を応援する。
「森見さん、頑張ってください!応援してます!」
あの万城目氏ともあろう人が素直に応援してくれるわけがない。わだかまるそうめんを食べさせられた仕返しに、不幸の巻き添えにする魂胆にちがいない。油断もすきもありゃしない。
「応援しないでください。けっこうです!」
登美彦氏は逃げまわって奈良へ帰った。