森見登美彦氏は仕事を納めることにした。
登美彦氏は意外に勤勉であって、へなへなと文章を書くほかに、秘密の仕事をしているらしい。
「生意気な!」
と言う人もある。
「つとまるのか!?」
と言う人もある。
ともあれ、登美彦氏は本業を首尾良く納めることに成功した。
ところが、副業を納めることに失敗した。
登美彦氏が本当に仕事を納めるのは大晦日の午前十一時頃になるであろう。そして正月の夜あたりが仕事始めになるのは火を見るよりも明らかだ。
登美彦氏が年末年始のしきたりをうやむやにせざるを得ない原因は二つ考えられる。
○登美彦氏にセルフマネージメントのアビリティがない。
○登美彦氏はできない仕事を引き受けすぎ。
それはともかくとして。増刷御礼。
我が子がたいへん頑張っているので、登美彦氏は「よくやった」と珍しく褒めた。
「しかし勘違いしてはならん!」と登美彦氏は呟く。「これは我が子が頑張っているにすぎない。親は我が子の存在の原因であるが、とはいえ我が子のがんばりは我が子のものだ。・・・しかしまあ、それでもやっぱり嬉しいものだな!」
登美彦氏は続けて述べた。
「年末年始にグウタラと、こたつで拙著を読んで頂けるならばありがたい。ぬくぬくと拙著を読んでいる読者が私は好きだ。その読者が可愛い黒髪の乙女であればなおさら好きだ。『ええ話や』としみじみ言ってくれる人であればなおさら好きだ。『こんな乙女がいるわけがない』とか『文章がうざい』とか『マンネリ』とか『くたばれ』とか『パクり』とか、そんな泣きたくなるような野暮なことを仰りなさんな。一度読んでしまった人はもう一度読めばよい。二度読んでしまった人はどうするか。むろん三度読めばよい。我が子をよろしく。ついでにへなちょこな親へも、一抹の愛を分けて頂ければ幸甚である。念のために言っておけば、タイトルは『夜は短し』である。お間違えなきやう。『帯に短し』ではない」
登美彦氏は、同僚の御母堂がタイトルを間違っていたと聞いたのだ。
「ちなみに私の前々作は『四畳半神話大系』である。『四畳半タタミなんとか』ではありませんよ!」