登美彦氏、夏休みを満喫する


 森見登美彦氏は以下のような夏休みの一日を過ごしたという。


■10:00
 地下室にて覚醒する。雨が降っていることに気づく。
 スパゲティを茹でる。


■10:30
 珈琲を飲みながら、机に向かってうにうにする。
 かつて掲載された雑誌をめくり、前回までの経緯を振り返る。
 前回みたいなものを書けそうにないので嫌になる。


■11:30
 赤木圭一郎主演「抜き射ちの竜」を観たりして、少しさぼる。
 拳銃無頼帖 抜き射ちの竜 [DVD]
 

■12:00
 新しく買った文庫本用本棚が可愛いので撫でさする。
 本を出したり入れたりする。
 そうしているうちに、例の黒い生き物がまた身の回りをうろついている妄想に駆られたので、殺虫剤をかまえて姿の見えぬ敵を威嚇する。冷蔵庫の下に少し噴霧してみる。ぶわっとたくさん出てきたらかなわんな・・・と想像しただけで気を失いそうになる。


■13:30
 コンビニまで優雅な散歩をする。
 野菜ジュースをごくごく飲んで、大いに健康になる。


■15:00
 何をどうしていいのか分からないので、思いついたことを紙片に書いて、万年床の上へならべる。情熱の赴くままにならべるうちに、一人で七ならべをやっている気分になる。うんうん唸る。紙片をあっちへやったりこっちへやったりする。にやにやする。ナイススティックという長細いパンをむしゃむしゃ喰う。また悩む。よく見ると万年床がとてつもなく汚い・・・と思った瞬間に天啓来る。
 「うほほーい」とDr.スランプアラレちゃんの真似をして机へ戻る。


■17:00
 だんだん、いっさいに飽きてくる。
 ジュール・ヴェルヌ神秘の島」をめくり、おもしろさに惚れ惚れする。
 


■18:00
 地下室を飛び出して、鴨川へ出かける。
 バスが通りかかった途端、なんだか遠くへ行きたい気分になってバスに乗る。後ろの座席に座っている女子大生が、「びっくりドンキー」のことを「びっくド」と言っていたのでびっくりする。登美彦氏はびっくりドンキーにはあまり行かないけれども、万が一行く羽目になった時は「オイ、びっくド、行こうゼ」と言おうと決意する。「しかしすごく言いにくい」


■18:00
 三条河原町につく。
 MOVIXの前を通る。映画「ハチミツとクローバー」観ようかなと思ったが、止める。決して一人で観るのが恥ずかしかったからではない。


■18:20
 四条河原町にぼんやり立っている。
 目の前を、丸々と太った半裸の男たちが四人通り過ぎる。四条河原町の雑踏の中で腹を出しているのはへんてこである。幻かもしれぬと思う。


■18;30
 コンタクトレンズを買う。眼科の鏡にて、自分が無精髭だらけなことに気づく。無精髭と鼻毛がワイルドさをかもしだしているであろうかと思うけれども、吹けば飛ぶような貧弱な身体でワイルドもくそもないものだ、と的確な反省をする。それほど登美彦氏は自分に甘くない。「おのれのザマを見てみろ!」と呟く。


■19:00
 新京極スタンドにて、ラーメンとライスを食べる。


■19:30
 新京極を歩きながら、「俺もたまにはちゃんと服を買わねばならん、新進気鋭の作家として恥ずかしくない格好をせねばならん」と思う。「でもそのまえに靴下を買わなくちゃならん」と思う。自分が左右別々の靴下をはき、しかも片方に穴があいていることを思い出す。いくら夏休みだからとはいえ、たるみすぎではないかと思うけれども、登美彦氏はそんなことを気に病む男ではない。


■19:45
 LOFTにて買い物をする。


■20:30
 島本和彦新吼えろペン(5)」を買って帰路につく。
 新吼えろペン 5 (サンデーGXコミックス)
 一読し、「駄作を書く勇気!」とわけのわからないことを叫ぶ。


■22:00
 もう寝ようかなと思うけれども、万年床の上に紙片がいっぱいならべてあり、これをどうにかしないと寝るに寝られないと腹を立てる。
 今日一日を振り返り、「夏休みらしさのカケラもねえッ」と叫んで腹を立てる。


 以上である。