森見登美彦氏は書き続けている。ひたすら書いている。
そして京都はずんずんと冷え込んでいる。登美彦氏は夕食を取るために街へ出た。寒風に吹き散らされた銀杏の葉が、道を黄色く埋めていた。あまりの寒さに氏は虚空に吠えた。冬将軍に喧嘩を売ったのだ。よけい寒くなったように思い、氏はさきほどの咆哮を撤回して、冬将軍に謝罪した。
「しかしこのままではホワイトナントカマスになっちまうよ!」
氏は呟いた。「じつに素敵だ!素敵極まる!」
そうしてスパゲティを喰った登美彦氏はふたたび下宿へ戻った。
登美彦氏は戦友のブログを見た。
そこに以下のような言葉を見つけて、氏は「うむ」と唸った。
「どんとこい、クリスマス」
氏は戦友に熱いエールを送った。
それから机に向かっていた様子であったが、あまりにも調子に乗ってバルザックなみのエネルギーで書きすぎたために、もはや自分の書いているものが面白いのか面白くないのか、日本語なのか英語なのか、判然としなくなった。
一般にこれは「枯渇」と呼ばれる状況であることを氏は知っている。
枯渇した時、人はいかなる手段を選べばよいか。
登美彦氏はメモを書いて考えた。
①敢えて血反吐が出るまで書き続ける
②すべての野望を放棄して比叡山に籠もる
③背筋を鍛える
④眠って明日に希望を託す
「これは究極の選択だぜ!」と氏は呟いた。
やむなく、登美彦氏は④を選ぶことにした。