登美彦氏、罠にはまる


 森見登美彦氏は編集者の人々との待ちあわせ場所へ赴いたが、なんだか大勢がやってきていて、物々しい雰囲気であった。登美彦氏はいささか驚いた。 
 お寿司を食べながら、彼らは色々と悪だくみをした。
 悪だくみであるから、詳細をここに報じることはできない。
 その悪だくみは登美彦氏と編集者が手を結んだ悪だくみと、編集者の登美彦氏に対する悪だくみの二種類であった。編集者の方々は登美彦氏が用心深く隠している(と思い込んでいる)自尊心をちょろちょろくすぐり、くすぐられて喜んでいるうちに、登美彦氏はまたうかつに約束をしてしまった。登美彦氏は、京都一、キャッチセールスにひっかかりやすい男として知られている。
 「もちろん、罠だと気づいていたとも。そうとも!」
 登美彦氏は関係者に語るが、それを信じる者は誰もいない。

 
 帰途、夜道を歩きながら、登美彦氏は「どれだけ頑張って書いても、みんな取られてしまうのだからな!」と地団駄踏んだ。「ありがたいこと限りないが、なぜだか激しく納得いかんよ!」
 登美彦氏は「依頼があるから書く」という事実を失念している模様である。


 登美彦氏はいささか危機を感じたので、今年一年のスケジュールを早急に作った。
 そして二○○七年始まって十日の今宵、すでに二○○七年を無事に乗り越える自信を失った。
 「どうして俺はこうなのだ。どうして約束をするのだ!」
 登美彦氏は自分に問い、そして逆ギレした。「分からんか!人の喜ぶ顔が見たいからだ!」
 そして鼻から血を吹いた。
 「恥を知れ!しかるのち死ね!」