登美彦氏、マンガを買う。


 森見登美彦氏は社会的有為の人材となるための布石として、新宿の某ビルで開催される研修に参加するために、ふらふらと朝から新宿へ出かけた。


 登美彦氏はめったに新宿というようなところに行くことはない。
 登美彦氏は案の定、広大な新宿駅構内で方角を見失い、怒濤のごとき出勤者たちの流れを前にして、濁流に行く手を阻まれたメロスのように立ちすくんだりしたあげく、新宿西口地下のイベント広場でなぜかこの朝早くから開催されている古本市に吸い寄せられて時間を忘れて古い文庫本を漁っているうちに、危うく「研修に参加する」という当初の目的を忘れ、社会的に無益な人材にまた一歩近づきかけた。
 丸一日の長い研修が終わったあと、登美彦氏は同僚といっしょに、かの名高い「新宿ナイアガラの滝」を見物した。そして都庁を見上げて首を痛くした。
 「立派なものですな!」
 登美彦氏はつい先日都民税を納めたが、魂まで都民になったわけではない。
 魂まで都民になる方法はいまだに登美彦氏には分からない。六本木ヒルズ等に行けば見つかるのであろうか。


 とはいえ、本日の中心的話題はそんなことではない。
 帰宅途中で登美彦氏は『京都中学生日記』というマンガを買った。
 「THE修学旅行」という短編がIKKIという雑誌に掲載されたとき、なぜか登美彦氏の心をつかみ、「果たして、ゆげ先生のこの作品が単行本になることはあるのだろうか」と手に汗握っているうちに、すっかり忘れてしまっていたステキな作品なのであった。
 そして単行本として読んでみても、これは派手ではないものの、じわじわと面白さが滲み出てくるような、ステキなマンガであったという。

 
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