森見登美彦氏は「あぶう!」と言ってみた。
日誌を更新するためである。
なぜかというと、いつまでもいつまでも、
「結婚した」
という日誌がてっぺんにあるのが照れくさい。
そして、たいへん大勢の人が祝ったり呪ったりしてくれるのが、
なんだか照れくさいぢゃないか。
「祝ったり呪ったりしてくれる方々、ありがとう!」
登美彦氏は言っている。「ごきげんよう!」
ちなみに、偉大なる万城目学氏が登美彦氏に語ったところによると、
「自分の妻についてあれこれ書くなんて、そんなことはできない」
ということである。
「森見さんだって書かないでしょう。書かないですよね?書かないでしょう?」
と万城目氏は念を押すのであった。
しかし、
「書かないでしょう?」
と言われると、
書きたくなるのが人情だ。
なにしろ登美彦氏は、
頭から尻まで「竹」のことしか書いてない本を書いた。
頭から尻まで「妻」のことしか書いてない本を書くことも、理論的には可能である。
頭から尻まで「竹」と「妻」のことしか書いてない本を書くことさえ可能だ。
しかし「竹」ですら誰が読んでくれるか分からない冒険だった。
「妻」となると大冒険である。
そんなことはお天道様が許しても、出版社が許さない。
したがって賢明なる登美彦氏は、
「できるだけ家庭を仕事に持ち込まない主義でいく」
と述べている。
とはいえ。
登美彦氏は幸せになるためには、結婚さえ厭わない男である。
つまり、特定の主義にこだわらない主義である。
「一寸先は闇です」
登美彦氏は言っている。