登美彦氏、デンジャラスとなる


 森見登美彦氏は悶々と日々を過ごしている。
 なにゆえ悶々としているのか。
 なぜなら書き物がいっこうに進まないからである。


 その芳醇かつ至高の味わいをもつ僅少な作品群を熟読玩味すれば察しがつくように、登美彦氏はひじょうにのろのろと書く。三歩進んで、二歩下がる。ときには三歩進んで三歩下がる。さらに興が乗れば、三歩進んで四歩下がることをも登美彦氏は辞さない。
 しかし登美彦氏が連日後ずさりを続ければ、<進行中の作品>が消失してしまうのは火を見るよりも明らかだ。
 現在、登美彦氏の身に起こっているのは、そういう事態である。


 「野放図に妄想を書き散らすお気楽な商売だなどと言ってのける輩は、やはらかな隕石にぶち当たって目をまわすがよい!」
 登美彦氏はそう叫びながら、足の小指で机の角などを蹴りつけた。八つ当たりのつもりであろう。しかし絹を裂くような悲鳴を上げたのは登美彦氏だ。
 小指を痛め、にわかにバイオレンスな感じを漂わせた登美彦氏は、悲愴な表情のまま夜の街を駆けめぐり、文房具をしこたま買ったりする。


 現在の登美彦氏はデンジャラスである。
 うっかりすると、レーザー光線で切断線を照射する「X-ACTO レーザーペーパートリマー」を衝動買いしそうなほどにデンジャラスである。
 参照 → http://www.pluto.dti.ne.jp/%7esprg/ybksf/pw051119.html
 このペーパートリマーを駆使して、A4の紙をA5にしたり、A5の紙をA6にしたりするだけで、ただいっさいが過ぎていきます。というほどにデンジャラスである。


 さわらぬ登美彦氏にたたりなし。 
 洛中の危うきに近寄らぬ君子たちのあいだでは、「登美彦氏に近寄らず」ゲームが、いまひそかなブームとなっている。