昨日はホワイトデイであった。
雪が舞い、ホワイトホワイトデイであった。
一ヶ月前のバレンタインデイに、限りなく小さな菓子をもって限りなく大きな憐憫の情を垂れたもうた、同僚の御母堂へ、登美彦氏は「もちぐま」を贈ることにした。
「可愛いラッピングなど沽券にかかわる」
登美彦氏はそのへんにあったUCCの珈琲豆の缶をあけた。
その中へ愛らしいもちぐまを詰め込んで贈ったところに、読者諸賢は登美彦氏の真骨頂を見なければならぬよ。そこに見なければ、もうどこを探しても骨頂はないであろう。
幸いなことに同僚の御母堂はもちぐまをたいそう喜び、登美彦氏に対して惜しみない感謝の念を送ったという。
登美彦氏は当然のごとく受け取った。
やはらかなもちぐまを握らせて人妻のハートを鷲づかみ、お茶の間も騒然のモテモテぶりを発揮する「平成のマダムキラー」とは俺のことだ。
そういう風に登美彦氏は言っている。
もちぐまの魅力を、巧みに自分の手柄にすりかえる。
登美彦氏はそういう詐術で広く知られている。