登美彦氏、書き終わる


 森見登美彦氏はひねくれ者の狸たちが乱舞する小説をようやく書き終え、東京へ向かって送り出した。
 古本市へ行く気まんまんだった登美彦氏は、すでに時間が五時をまわっていることに気づき、「終わってるがな!」と叫んで、しばらく立ち直ることができなかった。その後、もちぐまを揉んで元気を取り戻した。
 登美彦氏がお気に入りの喫茶店へ出かけ、鰯コンビーフライスをむしゃむしゃ食べながら『日本文壇史』を読みふけっていると、島崎藤村が失恋し、北村透谷が自殺した。
 「それにしても樋口一葉が愛おしくて困る」
 登美彦氏は誰にともなく悩みを漏らした。


日本文壇史3 悩める若人の群 (講談社文芸文庫)


 登美彦氏はホームセンターに立ち寄ってノコギリを二本と軍手を購入した。
 その用途は企業秘密である。