森見登美彦氏の作品の中でも、無益さにかけては他の追随を許さない作品が小型化される。
当初、登美彦氏は「竹を刈る」という斬新なテーマの連載エッセイに挑んだと主張していたが、そのような気配は開巻早々消え失せる。
そこから先に広がるのは恐るべきぐだぐだ世界である。
読む人はその凄絶なぐだぐだぶりに戦慄するであろう。
というようなことを書くと、「ぐだぐだの頂点を極めることによりかえって面白い作品になっているのではないか」と好意的に解釈してくれる心優しい人があるかもしれない。
そういう人はステキにぐだぐだな人である。
なお、この文庫化にあたって「番外篇」という章が新たに追加された。
登美彦氏と編集者たちは、この新章によってそれまでのぐだぐだぶりをなんとかしたいと目論んだ。いわば読後感の一発逆転を図ったのである。
しかし、全世界で日夜夢想されている一発逆転の奇策というものはたいてい失敗する。
結果として登美彦氏は、この世界にまた一つぐだぐだの文章を加えたのである。
「これは裏山の和尚さんの『ぐだぐだ』の呪いだ」
登美彦氏は述べている。
「今後一生かけて番外篇を何十編書き連ねたところで、『美女と竹林』がぐだぐだでなくなることなど決してないのだ。くわばらくわばら」
ちなみに筆者はこんなことを書いているが、登美彦氏自身は『美女と竹林』を愛しているのである。
そのあたり、誤解しないでいただければ幸いである。