yomyom v.9


「大日本凡人会」


 「大日本凡人會」とは、凡人を目指す非凡人の集いであるという。


 往々にして凡人は非凡に憧れるが、非凡人は平凡に憧れる。ここに非凡なる五人の男たちがあり、連日のごとく四畳半に集って、励まし合いながら凡人を目指した。
 「凡人になれない」
 彼らの苦しみはそこにある。


 五人は、誰もが非凡なる才能の持ち主で、それを持てあましていた。というのは、その才能ゆえにこれまで淋しい思いをしてきたからである。ともすれば人間は非凡な才能の持ち主を異物として集団から排除する。彼らは幾度も不当な扱いを受けた。体育館の隅で泣いたこともある。水泳パンツが脱げなかったこともある。中学の先生に黒板用コンパスで頭をコツンとやられたこともある。卒業写真に写りそこねたこともある。可愛いあの子にふられたこともある。


 最初から一切の期待をしなければ、失望もまたないだろう。しかし正義の味方に憧れた幼い日々の余韻がいつまでも胸中にあり、彼らは自分の才能を世の役に立てたいと迂闊に願いがちな偽善者であった。もちろん、可愛いあの子に振り向いてもらいたいという魂胆もあった。「このたぐいまれなる才能のチラリズムが、絶世の美男とは口が裂けても言えない外見をおぎなってあまりあるアウラを俺に与えてくれるだろう」―それは彼らに残された一抹の希望だったが、衝動に駆られて実力を発揮すると、決まって人々は彼らを遠巻きにした。昨日の友は今日の他人と化し、善行は決して報われず、ありったけの善意に対するお返しは背に突き刺さる冷たい視線であった。