登美彦氏、一日中喋り倒す。


 せっかくのお休みであったが、森見登美彦氏は働き者なので、朝八時の新幹線でまたぶらっと東京へ出かけた。朝早い新幹線は空いていて快適である。登美彦氏はぐうぐう寝た。
 つい数日前とまったく同じ手順を踏んで、登美彦氏は綿撫さんに連れられて祥伝社へ連れてこられた。
 そして小説NONのバックナンバーが揃った会議室へ軟禁され、いくつかの取材を受けた。
 登美彦氏が苦手な写真も撮られた。
 登美彦氏がなぜ写真が苦手かというと、魂を抜かれるからである。
 べらべらと喋り、魂をいくつも抜かれているうちに、日が暮れた。
 最後に佐々木敦氏のインタビューを受けた登美彦氏は、いくつも魂を抜かれてへろへろになっていた上に、佐々木敦氏の柔らかくも鋭い質問があまりにも的確だったので、ついウッカリと偉そうに真面目なことを喋ってしまった。「かえすがえすも無念である」と登美彦氏は述べている。


 あっという間に一日が終わり、登美彦氏は綿撫さんと丸の内にて、美味しい蕎麦と天ぷらを食べた。
 そして綿撫さんに見送られて新幹線に乗り、またぐうぐう寝ながら京都へ帰った。
 登美彦氏は「デキる男になりたい」とつねづね考えており、工夫を凝らしているが、いまだに新幹線の中で集中して仕事や読書に耽ることができたためしがない。昼日中であれば車窓の風景を眺めるのが楽しすぎてお話にならないし、夜であれば眠ってしまう。新幹線で小さいパソコンなどをパコパコしている人を見ると、登美彦氏はむやみに感服してしまうという。
 「今後の課題としたい」
 登美彦氏は固い決意を関係者に語った。