登美彦氏、サヨナラをする


 森見登美彦氏は、一年以上にわたって書いていた連作とようやく縁を切ることに成功した。
 「サヨナラ!サヨナラ!」
 登美彦氏は波止場に立って白いハンカチを振り、去りゆく船を見送った。
 別離の哀しみに涙が溢れるよりも前に、ようやく終わったと溜息が溢れた。氏がひとつに連なったお話を完結させたのは、「四畳半神話大系」以来、じつに二年ぶりのことであるという。思えば遠くへ来たものだ。来てしまったものだ。
 「ハッピーエンドにしてやった!」
 登美彦氏は何者かに向かって得意気な顔をした。「ざまあみろ!」


 登美彦氏はカルピスで祝杯を上げようと思ったが、この夏、氏が足繁く通っていた自動販売機は、すでにカルピスカルピスウォーターの販売を止めていた。
 登美彦氏は代わりに牛乳を飲んだ。


 「だがしかし、これからの道のりが、また長い・・・」
 そう言って登美彦氏は布団に丸まった。