森見登美彦氏が、アニメ「有頂天家族」に関するもろもろで右往左往している間に、この小さな恐るべきものが世に出る支度をととのえていたのであった。登美彦氏の第十一子にして、四畳半的暴れん坊。
これは登美彦氏の四畳半的妄想を実験的に煮詰めた本である。
ぐつぐつ煮詰まっている。
「もうよせ!」と、氏の友人は助言した。「それ以上『四畳半』をつきつめると帰れなくなるぞ!」
その通りであった。
四畳半が無限に増殖していく悪夢的世界。
登美彦氏自身が後になって、
「自分でもウッとなった」
と、側近の者に洩らしたほどである。
「本当に帰れなくなりかけた」
と、登美彦氏はぷつぷつ呟く。
「もうしない。もうしない」
そのタイトルにもかかわらず、『四畳半神話大系』との関連性はさほどない。
推定するしかないが、単行本の刊行当時、アニメ「四畳半神話大系」放映の余波によって原作『四畳半神話大系』の売り上げが増大しており、登美彦氏とS社との間に、その「うぇーぶ」にできるだけあやかろうという健全なる陰謀が存在したのではなかろうか。そういうわけでタイトルに同じ「四畳半」を使ったのであろう、というのが筆者の推理である。
とりあえず「まるっきり内容に関係のないタイトル」というわけではないので、お許しいただきたい。
『四畳半神話大系』が四畳半の外へと世界を拡張する小説であったとするならば、『四畳半王国見聞録』は四畳半の内側へと世界を拡張する小説である。
四畳半王国の建国者は、閉ざされた王国の最奥の地に何を見出したか?