登美彦氏、肩書きにこだわる


 森見登美彦氏は、先日、同僚の恩田氏と議論した。


 恩田氏は桃山御陵前駅の改札の向こうから「おい、売れっ子!」と叫んだり、「四畳半神話大系」の著作権*1をおとなしく俺に引き渡せと言ったり、「太陽の塔」文庫化の印税で「俺にパソコンを買え」「俺にデジカメを買え」「もうなんでも買え」などと要求する、男気溢れる人である。


 角川書店の「野性時代」において、「日本一の片思い作家」という、おそらく他に類のない肩書きが登美彦氏につけられた。
 あらかじめ「こんなんつけますけど」と尋ねられたとき、登美彦氏は「まあよかろう」と考えて傍観した。これほど奪い合う甲斐もない肩書きはなく、かくも阿呆らしい肩書きについて「ちょっと待った!その肩書きは俺のもんだ!」と言われるとも思わなかったからである。「たとえ宣伝とはいえ、日本一は悪くない」と登美彦氏は言った。


 ところが恩田氏は、「日本一の片思い作家」を、「日本一片思いしている作家」だと解したという。「日本一片思いを書くのがうまい作家」だと思いこんで悦に入っていた登美彦氏は、天狗鼻に冷水をひっかけられ、怒り心頭に発した。
 そして恩田氏と昼休みをつかって言い争ったが、恩田氏はけっきょく自説を曲げなかった。あんまり恩田氏が頑ななので、登美彦氏はふと不安になった。


 「日本一片思いしてる作家ってどういう意味やねん。火を見るよりもモテモテや、言うとるやんけ!」
 登美彦氏は、わけもわからず喧嘩腰である。

*1:太陽の塔」の著作権はファンタジーノベル大賞の主催者に帰属するため、「四畳半神話大系」は登美彦氏自身が著作権を有する唯一の著作である。哀れなる登美彦氏からいっさいを奪おうとする恩田氏の、ジャイアンに比肩し得るわがままぶりを読者はこの事実から理解されるであろう。